ネガティヴ評
以下のサマリーは、このページにリンクした日米記事からのモノです。
(冒頭の番号は、リンクページの記事に付けた番号と対応します。)
注:記事の選択はあくまで“私の主観”で選び、ピックアップしている部分も、“私の主観”で抜き出しています。
ぶっちゃけた話、“ネガティブ”な部分ばかり集めていますので、その辺は予めご了承下さい。
これらの記事の中にも(量的には少ないものの)、ポジティブなことも勿論書いてあります。
例えば撮影はよく撮れているとか、監督は爆発シーンを撮らせたら右に出るモノはいないとか…。
でも、まぁそういった誉め言葉は、ホームページやプロモーションでさんざん書かれていることでしょうから、
ここでは割愛しています。 悪しからず。m (_)m
「」の付いた文章については、出来るだけ原文に近く訳したつもりですが、
それ以外の部分は意訳&サマリーになっています。(#)の数字は、パラグラフの番号。
また、私はプロの翻訳家ではないので、訳の間違いも沢山あると思います。
お気付きの誤訳がありましたら、遠慮なくゲストブックの方でご指摘下さい。
New York Times, May 25th, 2001より |
by mook: 筆者のフランク=リッチは、元々NYタイムスの演劇専門のライターでしたが、今ではアート・セクションだけでなく、広くNYタイムス一般の論評も書いている人。この記事も、アートセクションではなく、ジャーナル面に載せられたものなので、映画評ではありません。尚、この記事のタイトル“我ら生涯の最良の年”は、ウイリアム=ワイラー監督の同名映画のタイトルに引っかけています。
「ハリウッドの調査によると、95%のアメリカ人が、映画”パール・ハーバー”について知っているという。歴史的イベントとしての”パール・ハーバー”を知っている人が、それより俄然少なくたって、気にすることはない。」「もしも“パールハーバー”が、オープニングで1億ドルを達成したら、それは、より多くのアメリカ人が、ヒロヒトよりも二流映画俳優であるベン=アフレックについて聞いている(知っている)からである。」(#1)- - - by mook ちなみに“パール・ハーバー”は、3時間という上映時間の長さから、オープニングで1億ドルという記録は達成できませんでした(^_^;)。
「それは、何百万の人々が“パール・ハーバー”を観た後でも変わりはしないであろう。なぜなら、これらの下らない(映画の)中味には、日本がなぜ攻撃をしたのかについて、うわべしか取り繕われていないし、ましてやこの問題だけでなく、当時なぜアジアやヨーロッパで戦闘が行われていたかの説明についてはまるでないのである。」(#2)
ここで筆者は、プレミアパーティでベン=アフレックがインタビューに答え、この映画が日本やアメリカの善悪を問うているのではなく、“悲惨な”戦争一般についての映画である、と言っていることを受け「(日本とアメリカの)善悪を問うことは、勿論、東京でのチケット売り上げを落とすことになる(から)」(#2)としめています。
(以下、筆者発言のサマリー)この映画がいかに事実と異なった部分を含んでいるかについては、この映画を奈落の底におとしめている数々の批評家達によってもすでに指摘されているが、例えば1)この映画の中にネイティヴ・ハワイアンが登場しないこと、2)当時アメリカ軍で喫煙は禁止されていたにも関わらず、それとは異なる部分があること(この2点については、確かに他の記事でも多く指摘されていました)、3)戦争当時でさえベン=アフレックが染めた髪の毛を長く保っていたこと、などである。この映画をオリバー=ストーンがやったら、それこそ調査委員会モノであろう。(#3)
この映画は1941年を舞台にしていながら、視点は完全に2001年からの視点で描かれている。この“Puppyish Love Triangle(子犬みたいな三角関係-このフレーズは、どこか他でも使われていました。どこだったか思い出したら、また書きます)は、映画「タイタニック」から一流階級を差し引いただけのモノである(#4)。
映画「パール・ハーバー」は、呆れる程のTV番組・書籍その他の関連企画に貢献しているが、10年前、トム=ブローコウ(TVニュース・アンカーマン)がパール・ハーバー50周年を取材しに行った時、報道陣は数える程しかいなかった。これらの一大現象は、段々と消え失せていく退役軍人達によってではなく、戦争を知らない新しい世代によって作り出されているのである。(#5)
我々の世代に欠けているのは、“犠牲”という概念である。ホワイトハウス報道次官であるアリ=フレイシャーは、「(政治家の役目は)、“アメリカ式の生活スタイル”を守る(石油等のエネルギーを確保する)ことである。なぜなら、アメリカのそれは最良のモノ(blessed one= 神の祝福を受けたもの)であるからである。」と言っている。(#6)- - - by mook なんかムカツク〜、このパラグラフ。アメリカ至上主義観バリバリっすね。
クリントン-ゴア政権であろうと、ブッシュ-チェイニー政権であろうと、自己主義的な政策に大した変わりはない。両政権共、「同情(compassion, feeling your pain)」や「誠実(faith)」という言葉を多様し、予算政策を打ち出し合ってはいるものの、どちらにしても有権者が自分達の生活について何かを犠牲にすることはないのである。マーシャル=ホイットマンは「両政権共、JFKの焼き直しにしか過ぎない。その核は“自分が国に対して何が出来るかということではなく、国が自分の利益に対して何をしてくれるかを問え”ということである。」(#7)
我々は、第2次大戦で闘った人々、すなわち父の世代に感謝しなければならない。例えば、グレゴリー=ダンが命名した“バーチャル愛国主義”という方法で。「“パール・ハーバー”を観に行ったり、“The Greatest Genetration”という本を贈ったりすることは、戦場に行くことと同じモラルをコストをかけずに(Cost Free moral equivalent of going to war )プレゼント出来る、父の日のよい贈り物になることであろう。」(#8)by mook - - -どひゃ〜〜〜〜(^_^;)。
こうしたバーチャル愛国主義は、より最近の戦争、ベトナム戦争の痛手を和らげてくれるものでもある。しかし、我われがどんなに第二次大戦のことを話題にしても、ベトナムの亡霊が消え去るものではない。ベビーブーマー世代の政治家やジャーナリスト達は、「我々は、誰をジャッジするのか?」「戦争は戦争である」「皆、誰もがやっていた」と言ってもろ手を挙げ、戦争責任の追及を諦めてしまっているのだが。(#9)
ニューズウィーク誌は、ボブ=ケリー(元ニュースクール学長、現上院議員)がかつてベトナムで指示した住民虐殺事件が明るみに出たニュースをボツにして、12ページに渡る“パール・ハーバー”のプロモーション特集を組んでいた(写真左上:北米版5月14日号)。また、ブッシュ大統領は母校イェール大学で演説をした際、かつてクラスメートの何人かが戦場で亡くなったにも関わらず、ベトナムについて触れることは一切なかった(#10)
メモリアル・デー週間、さかんに第2次大戦の特集が組まれていた最中にも、ベトナム戦争の影はなかった。「Glory Denied」には、アメリカで最も長い収容期間を送ったジム=トンプソンの9年間の収容生活と、帰宅してからのある意味地獄のようなさらなる数年間が書かれている。筆者であるトム=フィルポットは、「100万ドルを賭けて勝者を競うTV番組“サバイバー”を観る(知る)人達も、3236日の試練を生き延びて来たジム=トンプソンの実話については、殆ど知らない」と驚きのコメントを載せている。そしてまた、ハワイの洋上では、ボブ=ケリーのかつての仲間=アメリカ海軍がパラシュートから降りてくるというパフォーマンスと共に、有名人を集め、500万ドルの費用をかけた“パール・ハーバー”の御披露目イベントが開かれていたのであった。(#11)
(ディズニーとアメリカ軍がパール・ハーバーと愛国者達を白く塗り潰す) Village Voice, June 6th, 2001より |
by mook: 筆者は、ビレッジ・ボイスを中心に政治問題の記事を多く書いている、中国系アメリカ人の女性ライター。この記事も映画セクションではなく、特集記事のページに書かれています。
ディズニーの“パール・ハーバー”は、エピック・ラブストーリーを私達に見せてはいるが、それは二次的なものに過ぎない。視野を広げれば(この映画は)、何人かの批評家達が論じている様に、強大な組織であるmithymaker(神話を作る人達)が、ポスト冷戦の不安におののく観客を魅了する為、バラの花のフィルターをかけたアメリカを見せているというものだ。
(悪い意味での)高尚な“民主主義のファンタジー”とは、UCバークレーのロナルド=タカキ教授の言う、“アメリカのメインストリーム的な歴史”のことであり、アメリカの軍組織が、まるで(フランス詩人)シラノ=デ=ベルジュラックの様なディズニーのクリスチャンに成り代わり、アメリカ至上主義を裏面から巧みにコーティングしているのである。(#1)
ディズニーの伝統に乗っ取ってこの映画は太陽の日と共に大きくなり、国内の(すぐ隣の)、自分とよく似た敵ではなく、人種の違う相手とのボクシング・マッチに勝つ。ヒーローは、GFを獲得し、戦争は、悲惨で個人的な経験ではなく、コンピューター化されたアドベンチャーにすぎない。(#2)
フィルム・メーカー達はこの映画が深刻な戦争映画になることを避け、プロデューサーは、「史実に沿う様にはしているが、歴史の授業みたいにしようとは思っていない」と言っている。殊に、2400人の死傷者を出した日本軍の爆撃が、石油資源の確保という理由だけでなく、形式を気にするあまり、アメリカの公使・高官達が事前の警告を怠ったという仮説については、何も触れられていない。この映画、そしてそのサポーター達にとって、もっと重要なことは、“パール・ハーバー”が、今日のアメリカ、モラル、人々の統合、そして軍隊のヒロイズムにおいて、どんな意味を持つかということなのである。(#3)
脚本の段階で、日本人、日系アメリカ人、そしてアメリカ史専門家の間では、すでに論争が巻き起こっていた。しかし、この1億4000万ドルの映画が完成するか否かは、アメリカ軍の出方如何に関わっていた。ペンタゴンは、シカゴ・サンタイムズに対し「軍について、ネガティブな描き方をする映画は、それがどんな作品であろうとリアリスティックではない。」と述べている。そういった理由から、“戦火の勇気”等の映画は、政府のサポートを受けることがなかったのである。(#4)
アメリカ軍は、小道具からプレミア上映会の際の空母まで、これらのモノを貸し出すことによって、映画“トップガン”が公開された当時の様に、入隊志願者が増えてくれることを願っている。(#5)
また、この映画は、ミサイル防衛提案、化学兵器禁止条約への調印拒否、新たな冷戦としての中国・北朝鮮への脅威増長、はたまた1億6000万ドルでワシントンのモールに第二次大戦の記念碑を建てる計画などを押し進めるブッシュ政権に大きく貢献しているのである。(#6)
映画製作は、まだ誰が大統領になるのかも分からぬ昨年4月に始まった。外交問題エキスパートで「Blow Back:アメリカ帝国のコストと影響」の著者であるチャルマー=ジョンソンは、この映画が軍のロビー活動にとっていかに大きな力になったかを語っている。「軍にとって、ミサイル防衛は、その効果が問題なのではなく、その値段が問題となってくる。それは、軍産複合体を末永く存続させることになるのである。」(#7)
“パール・ハーバー”の様な映画は、実際にはない様な状況で、政策を刺激することもあり得るとジョンソン氏や他の評論家達は指摘する。愛国心、統合心、欠点のないアメリカのイメージをプロモートすることが、この場合は大きな鍵になっているが、それゆえに、過去や現在の醜い汚点は全て除外されている。プロデューサー達は、海外、殊に日本に対して攻撃的な部分をカットしたバージョンを作成している。しかし、アメリカの観客とて全ての部分を見ているわけではないのである。(#8)
1942年、約12万人の日系アメリカ人が、この日本による襲撃により、政府から直接、収容所へ入れられることを命ぜられた。(by mook - - -この件に関しては、このページも参考にしてみて下さい。)
この収容政策は、映画のクライマックスである東京急襲より2ヶ月早く始められたが、これについて触れた部分は全くない。収容所の中での徴兵を拒否したレジスター達を描いた「Conscience and Constitution」という映画を作ったフランク・アベの文章によれば、1988年、政府からの正式謝罪と一人当たり2000ドルの補償金を受け取った現在でさえ、日系アメリカ人達は、政治的迫害の脅威に震え上がっているという。(#9)
ハワイ大学教授ジョナサン=オカムラによれば、1941年までに反日本人感情や暴力は広まっていたらしいが、この映画からそれを読み取ることは出来ない。オクラホマのエンターティメント&ニュースによると、日本人には常にスパイや労働者のアジテーターのイメージが付きまとい、アジア人一般に関していえば“黄渦論”が囁かれていた。1952年になるまで、アジアで生まれた移民がアメリカの市民権を獲得することは出来なかったのである。(#10)
「Jap sucker」は、この映画で使われている最もどキツイ形容詞の一つである。しかし、現実はフィクションよりさらに厳しい。この映画による反日系人感情の恐れは、日系アメリカ人団体に自警団まで組織させることとなった。(#11)
「この映画はまた、非白人がハワイに住んでいるのを見せることを忘れてしまっている」と、ハワイ大学でネイティブ・ハナキーであるトラスク教授は言う。「アメリカにとって、先住民を登場させることはまずい。なぜならそれは、彼らには占有出来る自由の土地があるという彼らの考えと矛盾してしまうからである。」(#12)
映画のプロモーターにとっての“パラダイス”は、トラスク氏にとっては“占領された植民地”である。アジアと本国の中間に位置し、戦略的に重要な地点に位置するハワイは、1898年アメリカに併合され、1900年にアメリカ領地となり、1959年州の一つとなった。約10万人の軍役者が住み、少なくとも島の6分の1は軍に使用されている。アクティビスト達は、環境破壊、伝統存続の障害、先住民に対する超過政策、住宅地の縮小などの理由から、軍の島支配に反対している。(#13)
「ハワイは、アメリカ帝国主義のシンボルです」と、先述のタカキ教授は言う。これは、Viequenses(?)や 沖縄と米軍基地の関係と同じ様に、真実の歴史である、とジョンソン氏も言う。また、彼は言う。「これは、軍の使用する土地がいかに際限のないものかと話し合う上での“刺青”みたいなものさ。」(#14)
どの批評家も、“パール・ハーバー”は、綿菓子の様な「master narrative」であると口を揃えて言っている。それでもアメリカ人達は、群れをなしてこの映画を観に行くだろう。ジョンソン氏が言う様に、アメリカ軍の信じられない程のPR作戦をナメてはいけない。ディズニーだってPRに不器用なわけではない(むしろ長けている)。両者にとって興行成績の勝敗如何は、アメリカ神話の魅惑的なパワーにかかっているのである。(#15)
以上、ニューヨーク・タイムズ紙とビレッジ・ボイス紙は、伝統的に言ってアメリカではリベラル系の二大紙と言えます。都市部インテリ層(=NYタイムズの読者)とアーティ若者層(=ビレッジ・ボイスの読者)には、伝統的にリベラル系が多いからなのですが、これはアメリカでもごく一部の意見であると言わなければなりません。
この先、どちらかと言えば地方保守層の読む新聞の記事等も探してみたいなぁ、と思います。
----------------------
Back to Japan & US Index