評価の満点は5つ星です。
Mil-ae 「密愛」****3/4 |
Written and Directed by : Byun Young-Joo
Starring : Kim Yun-Jin, Lee Jong-Won
Official Site : Korean
東京国際映画祭にてワールドプレミア。韓国公開は今週末から。
『ナノムの家』三部作を手がけたビョン=ヨンジュ監督、フィクションでは初の長編映画作品。いや〜〜〜〜〜〜、素晴らしかったぁぁぁぁぁ!!!!
正直、私にとっては以下4つの理由で、観る前から不安テンコ盛りの作品だったのですよ。
1)ドキュメンタリー畑の監督がいきなりフィクションを撮っても、大抵は失敗する。
2)めっちゃくちゃ偏見なのですが、女性監督が女性の生き様についての映画を撮ると、大抵は情緒に流されるだけで、映画制作的な観点から見るとお世辞にも良質な作品とは言えない。
3)前作『ナノムの家』がかなり政治的な意味合いを持つ作品であったので(実際、私はまだ未見)、今回もアジテーション的な部分ばかりが鼻に付く作品になってしまっているのではないか。
4)主演のキム=ユンジンについて、これまで一度も演技がうまいと思ったことがない。
う〜〜〜ん、まいった!ビョン監督ってば、こうした不安材料を見事に全て吹き飛ばしてくれましたぁぁぁ。素晴らしい実力!おそれ〜いりましたぁぁぁ。m(_)m
まず、その映像の美しさにオドロキ。勿論、コレは『フラワー・アイランド』などを手がけた撮影監督の力量に負っている所も大きいのでしょうけれど、それにしても色彩といい、構図といい、ホントに決まってて美しかった。地方の閉鎖社会における密やかな不倫という、下手すればドロドロした題材が、情緒的(演歌的?)になり過ぎず、鮮やかに描かれていたのには、ホント感心してしまいました。
そして、その演出力。あの、『シュリ』のキム=ユンジンがこんなに演技出来る人だったなんてオドロキ〜〜〜。貞淑な妻から、心身喪失、母親としての彼女、一人の女性としての彼女、そしてラストの彼女…。脇役の女性達も素晴らしかったですね。やっぱり男性の描く女性像とは全然違うわ〜〜〜。
そして、話題の情事のシーン。皆さんご存知の通り、韓国映画には“コリアン・エロス”とも呼ばれる独特なエッチ・ジャンル?があるのですが、コレはもうぜ〜〜〜んぜん違うっっっ!この女性監督ならではの視点で描かれたリアルで繊細な情事のシーンは、韓国映画史上のみならず、世界の映画史上においてでさえ特筆されるべきモノだと私は思います。コレ観ちゃうともう、そんじゃそこらの映画のセックスシーンなんてみ〜んなオママゴトにしか見えないっすよ、マジで。
ストーリー的には、夫の浮気によって傷ついた妻が、越して来た小さな田舎町で知り合った医者とゲームとしてのセックス契約を交わすという、何ともドロドロとした浪花演歌調のお話なのですが、これがその素晴らしい映像と演出によって全然ベタベタしていない。そして監督の制作意図そのままに、ここに描かれているのは、女性の威厳とありのままの生き方。そこには、背伸びもなく、ヘンなプライドもなく、メソメソ・グジュグジュの愚痴もなく、ただただ彼女が生きている…。
例えば、ありのままのある男の人生を見せられても自分がどこまで同調できるか分からない様に、この作品を観た男性の反応がどうなるのかは分かりません。上映後のティーチインで、韓国女性の現状についてしつこく質問していたアメリカ人がいた様に、男性にとって韓国や日本の女性とゆ〜のは、ただ虐げられた存在(=だから守ってやらなきゃとかね〜)にしか見えないのかもしれません。確かに状況だけ上げれば、虐げられてますよ。けど、これまでの映画ってゆ〜のは、それを思いっきり演歌調にしてドロドロに謳いあげたモノ、もしくはそうした女性達が極端にしたたかに生きている姿を強調しているモノばかりだった。いわゆる等身大の女性を描いたアジア映画って、やはり今週観た『OUT』の他には、あんまり思い当たらないのです。
それにしても、韓国映画界にはこのビョン監督といい、『美術館の隣の動物園』を監督したイ=ジャンヒョン監督、『猫をお願い』のチョン=ジェウン監督、『フラワー・アイランド』のソン=イルゴン監督など、しっかりした演出映像作りの出来る女性監督が沢山存在していてうらやまし〜〜〜。確かに男性のキャラ達は(特に、この『密愛』のイ=ジョンオンめっちゃかっこいいぞぉぉぉぉ)、ある意味女性から見た男性の理想像を体現してはいるのですが、けどまぁ、これまでどれだけ銀幕の中の女性達が男性監督の理想像を体現して来たかと思えばね〜〜〜(^_^;)。
"Angela" - 「アンジェラ」***1/2 "Promised Land" - 「希望の大地」***1/2 |
10月25日から11月4日まで開催された東京国際映画祭で、『僕、バカじゃない』↓と『密愛』↑以外に観た映画は以下の3本。それ以外に、『スパイ・ゾルゲの全貌』と『ニッポン・シネマ・フォーラム〜小松沢陽一のトークショウ』という2つのシンポジウムに参加しました。
Oct 27, 02
特別招待作品。シアター・コクーンにて。日本公開は、2003年新春。
『ボーン・コレクター』や『いま、そこにある危機』を監督した、オーストラリア出身のフィリップ=ノイスによるオーストラリア先住民・アボリジニの実話を元にした大ヒット作品。かなり前からその評判を聞いていたので、ちょっと期待が大きすぎたかなぁ。な〜んか題材だけはアボリジニなんだけど、実際はただのハリウッド大作映画って感じですよね。主演もストーリーもアボリジニが主体の割には、主人公の少女達の内面が殆ど描かれていない。ただ映像だけが異常に美しくて、話にちっとも肉付けがないし、ラストもあまりにシンプル過ぎ。う〜ん、けど、その映像の美しさと子役達の演技の巧みさで日本では大ヒットするんでしょ〜ね〜〜〜。
ウォン=カーウヮイ以外の監督と組んだクリストファー=ドイルの撮影って初めて見たけど、こういった正統派の撮影も巧いんだ〜。うん、とにかく映像“だけ”はとても美しい映画でしたよ。だから、シアター・コクーンとゆ〜大スクリーンで観られたのは、けっこうラッキーだったかも。それにしても、知人が言っていた様に、実際劇中ではみんな裸足でなく靴を履いていたとゆ〜のに(チラシの写真でさえ、彼女達は靴を履いている)、アボリジニってだけで“裸足”と邦題を付けてしまう日本の配給会社の感覚ってのも、どうもね〜〜〜。
Oct 30, 02
主演女優賞受賞。オーチャード・ホールにて。日本公開はまだ未定。
イタリアの女性監督による作品ということで観てみたのですが、う〜ん、何かいまイチ足りない感じだったなぁ。フィルムメイキング的にはそつなくしっかり作ってあって、うまいなと思ったし、実話を元にしている割にはまぁまぁまとまっていたと思います。それにしても、何だろう?何か心に引っかかるモノが何もなかったのです。コレ残念。内容が麻薬マフィアの話なのに、極力バイオレンスのシーンを見せない作り方というのには好感が持てたんですけどね。
それにしても、やはり女性監督によって撮られた『密愛』↑といい、やっぱり女性監督によるエッチシーンはつくづくうまいなぁ。主演の女優さんは、妻としてのアンジェラ、愛人としてのアンジェラなどを巧く演じ分けて◎。
Oct 31, 02
最優秀脚本賞受賞。シネ・フロントにて。日本公開はまだ未定。
南アフリカを舞台にした極右白人家族の物語。…けど、話の中心はあくまで白人家族であって黒人のキャラは一人も出て来ません。それに、中途半端に盛り込まれたホラー&サスペンス調の色づけにチープなラブロマンス。24HDで撮影されたというその映像(トーン全体が『ユリイカ』の様な銀落としになっている)はやはり懲りに懲りまくっているのですが、それだけじゃ〜ね〜。
そりゃ〜、映画全体のテーマや気概は買いますよ。けど、だったら下手にホラー&サスペンスとかラブロマンスなんか入れないで欲しかったなぁ。特に主演二人のラブシーンのチープなこと。う〜ん、役者が大根というワケではなかっただけに、ちょっと勿体なかったです。
Xiaohai bu ben 「僕、バカじゃない」****1/2 |
Written and Directed by :Jack Neo
Official Site : English
東京国際映画祭にて
このホームページでは何度も書いている様に、子供ネタで泣かせる映画の大嫌いな私が、もう「まいりましたっ!」とばかりにボロボロに泣かされてしまった映画です。まぁ、言ってみればアジア映画のめっちゃベタな作品なので、全体のトーンとしては受け付けにくい人もいるかもしれませんが、もぉラストなんて劇場中のあちこちで皆鼻かんでましたもんね。え〜い、天邪鬼な私は思わず「打倒、『至福のとき』(今週末から公開になる、チャン=イーモウの最新作)!」と叫びたい〜〜〜〜。
監督は、『Money Not Enough』の脚本でアジア映画界期待の新人として踊り出たジャック=ネオ。シンガポールの映画業界とゆ〜のは、誕生してからまだ10年も経っていない実に新しいフィールドなのですが、TVドラマの歴史は長いし、政府も映画産業の助成にかなり力を入れているので、その質を侮ってはいけません。
自らも父親役として出演したジャック=ネオは、シンガポール人口の80%近くを占める中国系のシンガポーリアン。さすが脚本家出身とあって、彼のシンガポーリアンとしてのこだわりは、いわゆる“シングリッシュ(シンガポール風英語)”のオンパレードにも見られます。『Money Not Enough』『I Not Stupid』という英題は何も誤植ではありませんで、彼はわざとBe動詞を抜かしたシングリッシュを使っているのです。
この『僕、バカじゃない』。私個人的には一人でも多くの“日本人”に観て欲しいなと思います。その理由は3つ…。
一つは、この作品の中で描かれている異常なまでに西洋文化を崇拝する中国系シンガポーリアンへの痛烈な皮肉。コレって、何でも欧米文化ならカッコイイと思い込んでいる日本の人達にも見せ付けてやりたい〜〜〜〜。
二つ目は、やはり異常なまでの学歴偏向主義。コレは日本では飽き飽きする程までに論じられて来ましたが、すぐ近くの国でも同じ様なモンダイが展開されているんだな〜と思うと何だか身に詰まされてしまいます。そこに展開される家族や学校のモンダイなんて、日本のドラマではすでに何度も何度も描かれて来たことなんですけどね〜。
そして3つ目は、何をやってもトロくて冴えない太った(しかもぶ厚い眼鏡をかけた)男の子が、全編を通して“他人の言うことに左右されない”というこの映画のテーマを学んで行くというところ。何でもかんでも“右へならえ”の日本人には是非観て欲しいなぁぁぁぁ〜〜〜〜〜。
ま、ともかく個人的には“笑って泣ける人情映画”って大〜好きなんですよ〜。ただ泣かせる映画っていうのは、あるフォーマットに沿って作れば比較的簡単に出来るんですけど、笑って泣かせるってなかなか難しいんですよね。しかも、社会に対する風刺たっぷりだしな〜。子供三人の演技も最高に素晴らしかったし、いや〜、ジャック=ネオ監督、これからの作品がめっちゃ楽しみですっっっ!
「SUPER 8」***1/2 |
Directed by : Emir Kusturica
Official Site : Japanese
渋谷シネアミューズにて
連休中は東京にいなかったので、(仕事で観たモノを除けば)ナント3週間ぶりの映画鑑賞。今他に観たいモノは沢山あるのに、友達に付き合って観ちゃったのがこの作品でした。実を言うと、中盤殆ど寝てたんですよね〜(^_^;)。けど、それは決してこの映画がつまらなかったというのではなく、単に私がこの1ヶ月間朝から終電までほぼ毎日仕事に追われていた為だと言い訳しておきませう。現に映画が終わった後友達が一番面白いと言っていた“ブルース=リーのモノマネシーン”、私寝ていて見逃してましたから(^_^;)。
映画監督率いるミュージックバンドのドキュメンタリーと言えば、ウッディ=アレンのジャズバンドを追った"Wildman Blues"があるし、映画監督の私生活を題材にしたドキュメンタリーと言えばそれこそ枚挙にいとまがありません。けど、この映画が他の映画と違う所は、何と言っても撮っている側の人間が映される側(=監督自身を含む身内一同)とほぼイコールだという所。う〜ん、詳しくは知りませんがこのドキュメンタリーって、殆ど何の計画もされぬまま、取り合えず撮り溜められた映像を後でごった煮しただけという感じ。何てったってシネマトグラファーが10人くらいいるし、その殆どが身内の人たちで撮影されてます。
この、ある意味ただのファミリー・ビデオの様な寄せ集め映像をちゃんと一作品にしちゃうんだから、クストリッツア監督とゆ〜人は…(^_^;)。
けど、(寝ていた部分は除いて)全体的にはやっぱいまイチの作品ですかね、正直言って。ただ、それだけにラストに出て来るクストリッツア監督によるフィクションもどきのミュージックビデオのクリップは、めっちゃインパクトがありました。う〜〜〜ん、やっぱ天才だぜクストリッツアぁぁぁぁ〜〜〜〜。彼の監督には殆ど必ず登場するドンチャン騒ぎの音楽シーンの原点はココにあったのですね〜。嗚呼、昔の作品もいっかい観たい〜〜〜。
「インソムニア」**** |
Directed by : Christopher Nolan
Starring : Al Pacino, Robin Williams, Hilary Swank, etc
Official Site : English
銀座ピカデリー1にて
言わずと知れた『メメント』のクリストファー=ノーラン監督最新作。コレはもう観る前から、「『メメント』の様な期待はするな」と散々言われていたので、まぁ、こんなモンかという感じでした。もし、『メメント』以上のモノを期待して観に行ったら、かなりがっかりしてたでしょうね、実際。
皆さんご存知の通り、この作品は同名タイトルで公開されたデンマーク映画のリメイクなのですが、私はオリジナル版を観ていません。けど、なんかこう“白夜の地”独特(リメイク版の舞台はアラスカ)の不思議な雰囲気はよく出ていたと思います。
それと、脚本家はノーラン監督自身ではないのですが、取り敢えずよくまとまった脚本で、最初から最後まで無駄なく飽きもせずに観られたという感じ。
この作品一番のウリである、アル=パチーノの演技は、観る前にさんざん絶賛の声を聞きまくっていたので、「あ〜、確かにウマイよね」止まり。ちょっと異常な殺人犯を演じたロビン=ウィリアムスについても、現在アメリカで公開中の『One Hour Photo』(邦題:『ストーカー』の方がずっとコワそうじゃんという感じで、そんなに驚きはしませんでした。
一方、誰からも何の評判も聞かなかったヒラリー=スワンクについては、好きだったな〜私。正直、オスカーを獲得した『ボーイズ・ドント・クライ』の印象があまりにも強すぎたので、もう他のキャラを受け入れることは出来ないだろうと思ってはいたのですが、いやいやさすが、なかなかこの役には合ってたんじゃないかな〜と思ってしまいました。
アメリカでは批評家の間でも評価の分かれたこの作品。日本では先週の興行成績第1位だそ〜で、ま、時期が時期とは言え、これだけヒットするとはね〜。…とは言え、日本でのお客さんはその多くがあのホラーちっくな宣伝ポスターに引かれて観に行ってるのだそうです。確かにサイコ・サスペンスではあるけれど、ホラーではないですよぉぉぉ(^_^;)。
「クレマスター3」**** |
Written and Directed by : Matthew Barney
Starring : Matthew Barney
, Richard Serra, etc
恵比寿写真美術館にて
…とにかくもう、この映画は「好き」とか「嫌い」とか、「良く出来てる」とか「出来てない」という次元ではなく「やったモン勝ち」の映画とゆ〜感じでした。
今や世界の若手アーティストNo.1であるマシュー=バーニーがビヨークの赤ちゃんの父親であることすら知らなかった私は、友達から先月渋谷のシネマライズで行われていた“クレマスター・シリーズ1〜5”の集中上映会(朝から晩までの上映で、なんと7000円!)に行かないかと誘われても「冗談でしょ???」って感じだったのです。それが今度は写真美術館で、最新作の「クレマスター3」(クレマスターは、4・1・5・2・3という順番で製作された)のみを上映するというので、デザインやってる友達を無理矢理誘って行って来ました。なんてたって、クレマスター・シリーズは絶対にビデオ化されないので、こうして映画館で見るしかないのです。友達の話によると、シネマライズの上映では、わざわざ欧米から飛行機でクレマスターを観に来てた人達までいたのだとか。
偶然ですが、クレマスター3の舞台はニューヨーク。前半はクライスラービルで、クライスラー車を壊す壊す、ビルを遊ぶ遊ぶ…。で、真ん中辺りでちょっとサラトガ競馬場が出て来るのですが、後半はグッゲンハイム美術館を貸し切ってやりたい放題するわするわ…。フツー、こ〜ゆ〜ことって頭に浮かんで来てもしないよね〜〜〜。ソレを予算も何も考えずにやっちゃうトコがスゴイ〜〜〜〜。
ま、基本的にはワケわかんないビジュアルアートです。前半ただひたすら車がクラッシュするだけの時は、「なんじゃい〜〜〜」と思ったけど、後半は衣装も良かったし、私的にはかなり好きでした。美貌の義足アスリート、エミー=マランスが迫力なのですぅ。
値段がちょっと張るので誰にでもオススメ出来る作品ではありませんが、スタン=ブラッケイジの映画の様に、一度ハマっちゃうともっと観たくなってしまうタイプの映画ですね。チャンスがあれば、シリーズ他の作品も観てみたいなと思います。
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