評価の満点は5つ星です。
"The Man Who Cried" 「耳に残るは君の歌声」***1/2
"Bad Company" 「まぶだち」***
"The Choice of Hercules" 「突入せよ!『あさま山荘事件』」**
"Durian Durian"「ドリアン・ドリアン」****
"KT" ****
「耳に残るは君の歌声」 - ***1/2 |
Written and Directed by : Sally Potter
Starring : Christina Ricci, Cate Blanchett, etc.
Official Site : Japanese
飯田橋ギンレイホールにて
この映画、アメリカではぜ〜んぜん当たらなかったんですよね。私ってば名作と言われるこのサリー=ポッター監督のデビュー作『オルランド』をまだ観ていないのですが、2作目である『タンゴ・レッスン』がけっこう嫌いだったので、それよりさらに評価の落ちるこの映画は永遠にパスしようと思っていたのです。それが何故か日本ではすこぶる評判の良さ。で、結局観てしまいました(^_^;)。ん〜、やっぱ日本人ウケのする映画って感じですね。
もう10年以上前に見たので細かいことは忘れてしまったのですが、なんか『わが心のボルチモア』みたいな映画だな〜と思いました。私あの映画って、けっこう好きだったんですよね。
ストーリーは私的には最初から最後まで“お約束的”とゆ〜か、何も目新しいモノはなかったのですが、ま、よくあれだけ撮りまくりましたよね。前作『タンゴ・レッスン』が何処となく学生映画的ですらあったので、そのギャップにちょっと驚きました。
クリスティナ=リッチは、この後作になる『The Laramie Project』でもそうだけど、痩せてから一気に演技の幅が出てきた様な気がします。…とゆ〜より、何も言わなくても存在感だけで何かを物語ってるとゆ〜か。それに比べて、ケイト=ブランシエットとかジョン=タトゥーロとかウマイんだけど、いまイチだったかな私的には…。ジョニー=ディップはまたまたジプシー役で、私にとっては「なんだ、『ショコラ』と一緒じゃん」くらいにしか…(^_^;)。
ま、アメリカで観てたら泣かなかっただろ〜な〜とゆ〜様な典型的“カルチャーギャップ映画”でした。ホント、こ〜ゆ〜のって不思議ですね〜〜〜(^_^;)。
「まぶだち」 - *** |
Written and Directed by : Tomoyuki Furuoya
Starring : Mikio Shimizu, Ken Mitsuishi, etc.
Official Site : Japanese
下北沢シネマにて
オシャレに変身したスズナリ横丁に出現した下北沢シネマ(超ぶったまげました)で限定上映されていた『まぶだち』『メイキング・オブ・まぶだち』『この窓は君のもの』を、思わず(?)3本続けて観てしまいました。
昨年のロッテルダム映画祭グランプリを皮切りに各国国際映画祭で上映されて来たので、それなりに期待はしていたのです。う〜ん、けどな〜んかいかにも“サンセット・シネマワークス”的な映画だったのが受け付けられなかったかな、まずは。それでも、『ユリイカ』とか『独立少年合唱団』とかは好きだったんでね〜私。アレらもティピカルな“サンシネ映画”だったのに…。だから、基本的にはそれよりも古厩監督が自分の趣味じゃなかったってコトだったのかも鴨。
映画のコンセプトはね〜、けっこう好きだったんですよ。言ってるコトは分かるし、共感もする。けど、そ〜いった内容的なことよりも、映画作り自体が何か違う様な気がしたんです、私の好みと…。確かに“サンシネ”お得意の美しい田舎の風景とか、監督の構図の撮り方とかもけっこううまいんじゃないかなとは思うんですよ。ロングショットなのにそ〜入れるか〜?みたいのが沢山あったし…。う〜ん、けどやっぱ私の趣味じゃないんですよね〜〜〜。
それと、あ〜ゆ〜教師って、ちょっとリアリティの域を越えてませんか?台詞があまりにも頭デッカチだったような気がします。言いたいことはよく分かるけど、アレじゃあまりにも浮世離れしてるとゆ〜か…。俳優の清水幹生も、うまいとは思うけど、私的にはあまり魅力を感じませんでしたし。
その点、中学生は皆良かったですね。演技下手なんだけど、妙なリアリティがあった様な気がします。彼ら3人のうち、俳優として残ってゆく人が出るのかどうか、これからがちょっと楽しみ。それにしても、女の私から見ると、男同士のあ〜ゆ〜“ざくっとした”友情関係は、何とも羨ましいなぁ。
お父さん役の光石研は…、あの〜もしかしてWOWWOWと年間契約でもしているのでしょ〜か(^_^;)(^_^;)(^_^;)…。さすがにコレだけ続けて見ると、演技が全部同じに見えて来ちゃうんですけれど…(^_^;)。
ともあれ、あ〜ゆ〜映画がヨーロッパではちゃんと受け止められるんだ〜ってゆ〜のはちょっとオドロキでした。だってこの映画って、ストーリー殆どないから、内容が理解出来なきゃ好きにもなれないですモンね。少なくともフランス、スイス、オランダ辺りではちゃんと一般公開されたのですから、欧州の配給会社とゆ〜のも懐が深いなぁ…。アメリカでは勿論、映画祭などの限定上映でしか公開されていませんでしたけれど(^_^;)。それにしても、光石研ナレーションのメイキングビデオは、長かったけどあまり内容なかったなぁ…。
『まぶだち』より7年も前に16ミリで制作されたマイナー映画。けど、ロケーションが私の母方の故郷である山梨県だったりして、そこには私的に見慣れた風景が広がっていました。
う〜ん、この映画が映画学校の生徒や映画オタクから好かれるのには納得行くんですけどね。それにやはり“言いたいコトは分かる”!!!けど、やっぱ私の趣味じゃないんですよ〜〜〜。
10代から20代前半の時の恋愛って、お互い好きって分かってても、すぐにゲームしたがるじゃないですか。何とも思ってない“フリ”してみたり、バカみたいに逃げまわっちゃったり、お互い何考えてるのか探り合ってるばっかなくせに、何にも考えてない“フリ”してみたり…。そうそう、あの頃は時間が永遠にあるみたいに感じてたからなぁ。今じゃぁもうそんなのって「時間もったいない」とか思っちゃう自分がカナシイです(^_^;)。
予算の為だったのかワザとだったのか、あくまでもシロウトさん達を使ったのは正解でしたね。やっぱりヘンに美男美女のカップルじゃリアリティないモンなぁ、あの話じゃ…。けど、それであそこまでちゃんと撮れたのはやっぱり監督さんの才能なんでしょうね。
…というワケで、古厩監督の2作品、やっぱ劇場で観て良かったです。取り合えず構図的にはウマイからなぁ。う〜ん、でもやっぱり自分の趣味ではないです。次の作品がどう来るかには、非常に興味ありますけどね。
「突入せよ!『あさま山荘事件』」 - ** |
Written and Directed by : Masato Harada
Starring : Koji Yakusho, Masato Ibu, Kippei Shiina, etc.
Official Site : Japanese
渋谷東映にて
公開前からすでに評判の悪かったこの映画、「ど〜してわざわざ1000円以上のお金を払って観に行くの???」と聞かれれば、「そりゃ〜椎名桔平が出てるしね」と答える様にしているのですが、実際、本当の理由はそうではありません(^_^;)。やっぱり私、原田監督の前々作(前作『狗神』はいまだ未見)『金融腐食列島:呪縛』がほ〜んとに大〜〜好きなんですよ。もう何度観てもスゴイな〜と思うし、90年代に日本映画を殆ど観る機会のなかった私にとっては、過去10年間における日本映画ベスト3に確実に入る作品であったのであります。
それが…。ど、ど、ど、ど〜〜〜しちゃったんですかっ、原田監督っっっ。内容はさておき、あの映画作りは?????????
個人的には、映画が始まって5分程過ぎた後藤田警視長官室のシーン辺りからもう映画館出たくなっちゃいました。あの『呪縛』で見せた重厚な映画作りは何処へ?????何とゆ〜か、映像がどことなく不安定なんですよ。手持ちでドキュメンタリーっぽくしたり、ちょっと実験的なアングルで撮ったって別に私は構わないのですけれど、どれもしっくり来ていない。“ココにはコレ”とゆ〜TPOがことごとくハズれている様な気がして観ててとても歯がゆかったです。
今回一緒に観た3人は皆、「原田監督、ど〜しちゃったの?“警察万歳”の映画なんか作って???」と言いつつ、『呪縛』が好きだったから映画作り的にはそれなりに期待してたみたいなんですよね。けど、やっぱり感想は「何アレ?」で…(^_^;)。
第一アレだけの豪華キャストを総出演させていながら、殆ど全員にまるで魅力を感じられなかったのは残念無念。私的に「お、いいな」と思ったのは丸山参事官役の串田和美ただ一人だけでした。遠藤憲一が出てたなんて誰も気が付かなかったし、犯人役が武田真治とはね〜、アレはファンにしか分からないですよ(^_^;)。
ま、何につけ、佐々淳行役の役所広司が佐々氏本人と180度違う人であったというのもマズかったんじゃないですか?私は佐々氏がTV出演してるのって一度しか見た事ないのですが、原作本を読んでどんな人かは把握してたつもりなんで…。う〜ん、役所広司はただいつもの役所広司だった…(^_^;)。
そう、この映画の最大の敗因は“ひたすら中途半端な映画になってしまったこと”だと思うんです。賛同するかどうかはともかく、“警察万歳”なら“警察万歳”、警察内部のカオスを描くのなら最初からそっちにだけ集中して欲しかった。そのどちらもが中途半端になってしまっているので、何かもうコメディになってしまってる(T_T)。特に長野県警の描き方、アレは原作よりもずっと滑稽に描いてあって長野出身の人達は怒るだろ〜な〜(^_^;)。野間(本名は野中)本部長役の伊武雅刀もよくあんな役引き受けましたね。勿論、最初からそちらだけに焦点が当たってるのならいいんですよ、でもヘンにおまけ程度に付け足されてるから、かえって目立っちゃってたりなんかして…(^_^;)。
この映画の英題は『ヘラクレスの選択』なんですけれど、役所広司はやっぱり役所広司のままだったから、いつもの様に周りに流されて“ココがキメだっっっ!”というシーンが結局なかった。コレがこの映画の根本的欠点だったのではないかと思います。
う〜ん、原作付きの難しさなんでしょ〜かね〜。内容的には原作本の興味深い所を全部ピックアップして、うまくまとめた脚本に仕上げているんですよ。でも結局そうしたオイシイ所をなぞらえただけで、決め手のパンチがどこにもなかった。ま、『呪縛』のクライマックス=株主総会もちょっと尻切れトンボにはなちゃっていたので、これは監督のウィークポイントでもあるのでしょうか?
もともと、個人的には事件そのものを懇切丁寧に逐一再映像化することに一体何の意味があるの?と思ってしまっているんでね〜。映画を観る前、ヘンにアレコレ前知識を付けちゃってたもんだから、「あ、ココで誰々が何発打たれる」とか全部頭に入っていた私にとって、ただお約束通りの映像を見せられるのは、け〜っこうつまらなかったです。それより、せっかくの大作映画なんだから私達の想像を越えた何かを見せて欲しかったな〜。もうこの際フィクションバリバリでもいいし、警察万歳でも良かったんですよ。ちゃんとエンターテイメントにさえしてくれれば…(^_^;)。
そうそう、“私達の想像を越えた”という部分で言うと、今年初めにNHKで放送された『プロジェクトX』の特集は面白かったですね〜。そ、アレこそ椎名桔平サンの演じた白井兄弟を深く掘り下げたモノだったのですが、めちゃワクワクして超面白かったですよ。あ〜ゆ〜話こそ、本当は映画化されるべきではなかったのかなぁ(些細なことですが、番組の中で兄弟は連合赤軍からの仕返しを恐れて看板の名前を消したとありました。だから映画の中でクレーン車に“白竜組”なんてデカデカと書かれていたのは史実と違っているんですね(^_^;)。
とどの詰まり、この映画では“悪役”が見えないばかりか“ヒーロー”すらいなかった。監督が警察や連合赤軍に対してどんなスタンスを持つにせよ、やはりソコはエンターテイメントとして割り切って欲しかったと思います。コレじゃ、誰が観ても中途半端な映画って感じで、あ〜巨額な制作費がもったいない…(^_^;)。
「ドリアン・ドリアン」 - **** |
Written and Directed by : Fruit Chan
Starring : Hailu Qin, Wai-Fan Mak, etc.
Official Site : Japanese
恵比寿ガーデンシネマにて
昨年のニューディレクターズ・ニューフィルム映画祭で見逃してしまって以来、ヴェネツィア、トロント、ロンドンなど数々の国際映画祭での評価を聞く度に観たくて観たくてしょうがなかった映画です。日本では『メイド・イン・ホンコン』『花火降る夏』『リトル・チュン』と言った香港返還3部作でお馴染みのフルーツ=チャン監督ですが、アメリカでの知名度はまだ低く、今回や〜っと最新作を観ることが出来たのでした。
さ〜っすがチャン監督。アジア映画でありながら恵比寿ガーデンシネマでの公開だなんて、そんなオシャレな映画だったんだ〜、と超の付くボケをかましていた私。最初の5分を観初めて、そんな思い違いはどこかにすっとんでしまいました(^_^;)。そう、やはり劇場が劇場なんでね。「え、香港映画?ウォン=カーウァイみたいな映画なの〜?」なんて勝負デート(?)で観に来たカップルなんかは、思いっきりコケてしまったに違いありません(^_^;)。
そ〜なんですよ。この映画、同じ香港とは言ってもウォン=カーウァイみたいな映画とは大違い。むしろ『プラット・フォーム』や『ふたりの人魚』を足して2で割った様な映画でした。だから最初の思惑より、ず〜〜〜〜っと私好みだったというワケですね。
私が香港へ行ったのはもうかれこれ10年以上も前なんですけど、それでも裏路地の強烈な雰囲気は今でも印象に残っています。だからウォン=カーウァイの映画とか、最近日本のドラマなんかにちょこちょこ登場する香港の姿を見ていると、「アレ〜?香港ってあんなんじゃなかったよなぁ」とか思ってしまうんですよね(W=カーウァィの映画については、別世界の香港としてアレはアレでけっこう好きなんですけれど)。
けど、この映画を観た時に「あ、そうそう、コレだコレ!私の知ってる香港!」という懐かしいモノが蘇って来たんです。そう、この映画で私が一番好きだったのは、その殆どドキュ・ドラマにも近い様なそのリアリズム。特に香港パートは殆ど手持ちカメラで撮影されているので、まるでドキュメンタリーでも観ている様な感じなんですね。けど、ドグマ95みたいな気負いとかわざとらしさもなくって、私には非常に好感が持てました。
そして映画が(私的に)いよいよ盛り上がって来るのが、後半1時間以降の牡丹江パート!!!う〜ん、コレって“今の私”だからあんなに泣かされちゃったんだろ〜なぁ。だから、この映画が誰にとっても胸に響く作品なのかどうかあんまり自信ないです、はっきり言って。実は後半のヒロインって、香港の出稼ぎから帰って来て、故郷の家族や友人達から「スゴイよね〜」とか言われつつ、そう言われれば言われる程逆に孤独になっていっちゃうみたいな心情が淡々と描かれているんですよ。私ってば、コレをNYから日本に帰ってきたばかりの自分の姿にどうしても投影せずにはいられなくって…(^_^;)。チャン監督、男性なのにこ〜ゆ〜トコの繊細な描き方は、ニクイくらい本当にうまいですね〜〜〜〜。
それにしても、このリアリズムは一体何処から来ているのでしょう???特に後半は脚本も殆どなくプロの俳優さんを一切使わなかったことが、やっぱり大きかったんでしょうね。特に幼馴染みの3人組は良かったなぁ。彼らの歌う数々の替え歌(結婚行進曲が離婚行進曲になってたり、いきなりインターナショナルがポップ調に替え歌してあったり)も最高でした。あの辺りが相当『プラットフォーム』に似てるんですけどね。
同年ノミネートされた『グリーン・ディステニー』のチャン=ツイィーや『花様年華』というビックな候補者達を見事に抑え、香港で最優秀主演女優賞を受賞したチン=ハイルーについては、彼女があまりにもリアリスティックだったので、もう演技だなんて全く思えませんでした。全〜然美人じゃないんですけれど、それがまたいいんですよね。それにしても香港での彼女と、牡丹江での彼女はまるで別人だぁぁぁ〜〜〜。
子役のマク=ワイファンについては、『リトル・チュン』に次いでこの映画が出演2作目だそうで、まだ10歳に行ってるか行ってないかでしょうに、もうすでに貫禄すらありますね〜。子役にありがちな危なっかしさが全然ない〜〜〜。
以上二人以外の出演者は全くのシロウトさんだったそうですが、冒頭に登場するお父さんもめちゃ良かった。もう彼が出てるだけでこの映画、完璧なドキュメンタリータッチですよ(^_^;)。
映画のタイトルになっているドリアンというフルーツは、私にとってやはり10年以上前、シンガポールへ行った時に初めて見た果物です。この映画の中で何人ものキャラクター達が口を揃えて言う様に、「こんな臭いのに、どうして果物の王様なんて言われてるんだ???」って、私もそればかりを繰り返し言っていた様な気がします。そう、残念ながら映画というメディアにおいて“臭い(におい)”というモノを感じることは出来ないけれど、臭いってある意味何かに対するもの凄く象徴的な意味を持っているんですよね。
私が初めてNYへ行った時も、強烈に感じたのはその臭い。あんな臭いは、映画でもTVでも本でも雑誌でも、まるっきり伝えてはいなかった。2人の少女にとって香港というモノがあのドリアンの臭いと共に記憶の底へ残る様に、私にとってもNYと言えば夏の終わりのプーンとした臭いだったりするんですよね(^_^;)。
ドリアンはまた、外側に鋭い棘を持った硬い皮で覆われていますが、中身は甘くて一度虜になるとクセになる。コレもまた香港やNYがよそモノに対して持っている様な排他主義と麻薬性を象徴している様な気がします。いわばヒロイン達の香港に対する愛憎を象徴しているのですが、こんな所もまた私にとっては自分のNYに対する愛憎をピタリと表現されてしまった様で思わずキテしまったんですよね〜。
…というワケで、私にとっては絶妙のタイミングで観てしまったこの作品でしたが、新作『Hollywood Hong Kong』や『Public Toilet』の公開も今から楽しみなフルーツ=チャン監督。女性を淡々と描くことの出来るアジア映画の監督を、また一人見つけてしまいました〜。
Directed by : Jyunji Sakamoto, Written by : Haruhiko Arai
Starring : Kouichi Satoh, Gapsue Kim, Yoshio Harada, etc.
Official Site : Japanese
渋谷シネ・アミューズにて
昨年NYで『顔』を観たとき、阪本監督から「次はね〜、金大中事件の話を撮るんだよ」と聞いて、正直「はぁ〜〜〜?」とコケていた私。いや〜、ホント〜に作っちゃったんですね(^_^;)。
折りしも、先週の北朝鮮人による中国の日本大使館亡命事件なんかが重なって、こ〜ゆ〜亡命事件が外交問題にまで発展するケースが、普段以上にとてもリアルに感じられてしまったりなんかしています。
近頃、『光の雨』や『突入せよ!あさま山荘事件』など、1970年初頭を舞台にした政治色の映画が次々と公開されていますが、この映画に政治的なメッセージはありません。けど、やっぱり荒井晴彦脚本ですからね〜、そういった部分はどうしたってちょこちょこと表れてしまっていますよ(^_^;)。
ただね〜、私がこの映画を好きだったのは、やっぱり私がこ〜ゆ〜“オジサン映画”を好きだからなんですよね。この映画はその内容はともかく、明らかに私の好きな山本薩夫の60〜70年代作品や、アメリカ映画『インサイダー』の流れをくんだ“オジサンの悲哀たっぷり映画”に仕上がっています。だから、そ〜ゆ〜のに全く興味のない人達にとっては、あまりアピールしない映画だと言えるかもしれません。
この映画は、初めにプロデューサー&監督(日韓をテーマに)、そして脚本家(金大中事件を題材に)ありきで企画が進められたそうですが、当初の企画にあった様に日韓の恋愛モノだったり、在日の青年が主人公になってたりしてなくてホントによかったと思います。そんな映画はもうウンザリする程作られてきたし、今更観たくもないですから。
いろんなオジサン達が、いろいろな角度から一つの事件に向かってアプローチしていく。群像劇はどちらかと言えば趣味じゃない私でも、この手の映画は別。それに何と言っても、キャスト陣が私好みの渋い面々でね〜(^_^;)。
まず最初に、佐藤浩市とキム=ガプスの初中年コンビは良かった。『顔』でも書いた様に、私の場合、佐藤浩市っていい時と悪い時の差が激しいのですが、今回は良かったな。けど、どちらかと言うと一人でいる時の彼よりキム=ガプスと二人でいる時の彼がいいのね。なんかあのコンビ、妙に似合ってるなぁ。キム=ガプスも、いかにも韓国のオジサンの悲哀まるだしで(どんなんだ???)最高。特にあの二人がネクタイなしの背広着て二人並んだ日にや〜、もうそそられちゃいます〜(…って全然映画の感想になってない…(^_^;)。
そして何と言っても原田芳雄ね〜。いや〜、もぉこんなにオイシイ役ないですよぉぉぉ。この映画の一番オイシイとこ持っていっちゃったのが、彼じゃないかな。彼のキャラへ来てやっと荒井晴彦の本領発揮というか、この映画、もし主演二人の中途半端なキャラだけで終わっていたら、作品自体の面白さも半減していたかもしれません。そう、主演二人の設定って実はめちゃくちゃ複雑になっていたのですが、本編では全部カットされちゃってるのね。尺的には確かに仕方なかったかもしれないし、それらをカットした事でこの映画をあくまで“ドライな仕上がり”にした監督の采配を弁護する立場に私は立ちますが、個人的には主役2人のバックグラウンドをもうちょっと見てみたかった様な気はしています。
他には、最初主役になるはずだった筒井道隆の役。下手すれば映画全体がウェットになってしまいそうな所を、彼自身の魅力で随分とカバーしていた様な気がします。何か坊ちゃん刈りとチェックのブレザー(死語?)が妙に似合っててかわゆかった(^_^)。お母さん役の江波杏子もサイコ〜〜〜〜〜。
後はやっぱり出た〜〜〜〜の光石研(^_^;)!!!!!今回もいい味出しまくって大忙しですね〜。香川照之、利重剛、平田満などの“コレ系映画”映画常連組を見るのも楽しかったし、麿赤児の出演にはひたすら笑った〜(^o^)。
で、これだけのキャラクターがいながら、女性キャラはガプスのお母さん&彼女と満州男の彼女だけ。『赫い髪の女』など、男女の愛憎を描くことで名を馳せてきた荒井晴彦脚本の作品としては、ちとモノ足りなく思った人もいたかもしれませんが、私にはあれくらいでちょうど良かったですよ。正直、私は個人的に荒井氏の描く女性キャラがあまり好きではないので。何とゆ〜か、やっぱりど〜しても男に都合のいい女達でしかないんでね〜。だからホント、ガプスの彼女なんか観た時、「うわ〜、やっぱガプスが主役の映画じゃなくて良かった」と思っちゃいましたモン。あんな自身の(?)ノスタルジックどろどろの恋愛映画2時間見せられてもね〜〜〜(^_^;)。だから私的には満州男と政美の恋愛シーンもバッサリと切ってあって、かえってせいせいしたくらい。結果的には、荒井晴彦って恋愛モノ以外ならウマイんだなぁ〜と今回妙に感心してしまいました(^_^;)。
『顔』でいきなり大ファンになってしまった阪本順治監督。う〜ん、こ〜ゆ〜映画を撮らせてもやっぱウマイですね〜。今回は撮影も良かったし、同じ撮影監督と組んで、同じ1973年を描いた前作『新・仁義なき戦い』もこりゃ〜絶対観なきゃな〜〜〜〜。あ、余談ですが劇中に出てきた『仁義なき戦い・広島死闘編』を上映してたの、アレ新宿昭和館じゃなかったですか???
それと個人的には布袋寅泰作曲の音楽も好きでした。マジでサントラ買っちゃお〜かな〜〜〜。
…とゆ〜ワケで、『金環食』とか『華麗なる一族』とか『戦争と人間:三部作』とか、あの辺の映画が大好きな人や、70年代初頭にノスタルジックな想いを持つオジサン達には心に染み入る映画だと思いますが、それ以外の人達にはね〜。興行的にはあまりヒットしないんじゃないかな。けどね、20年とか30年経って映画学校の学生なんかが「へぇ〜、昔、こんなスゴイ映画が作られていたんだ」と、DVD辺りで観て絶対感動する映画、古典として後世にまでちゃんと残っていける映画なんじゃないかと私は思います。ちょうど大学生の時、『金環食』や『華麗なる一族』を観て私が衝撃を受けたのと同じ様に。ある意味阪本監督にとっても荒井晴彦氏にとっても、後に代表作の一つとして残る作品なのではないでしょうか。
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