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評価の満点は5つ星です。

"The Royal Tenenbaums" - 「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」****3/4
"Shrek" - 「シュレック」****1/2
"Amelie" - 「アメリ」***3/4
"No Man's Land" - 「ノーマンズ・ランド」****3/4

"The Royal Tenenbaums"
「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」 ****3/4
Dec 26, 01

Directed by : Wes Anderson , Written by : Wes Anderson and Owen Wilson
Staring : Gene Hackman, Anjelica Huston, Gwyneth Paltrow, Ben Stiller, etc.
Official Sites : English
日本での公開は、2002年春

およそ3年前、映画オタクの間で一大センセーションを巻き起こした映画『Rushmore 〜天才マックスの世界』のウェス=アンダーソン監督待望の最新作。この映画、9月に開催されたニューヨーク映画祭でも上映されたのですが、オープニングやクロージング上映よりもチケットが早く売り切れてしまうという前代未聞のフィーバーぶり。ルーミーであるC君の知り合いにフェスティバルの関係者がいるので、何とかチケット2枚くらい…とお願いしたのですがダメでした(^_^;)。まぁ、プレゼンターがマーティン=スコセッシというのもあったんでしょうね。
…というワケで、待ちに待って待ち続けたこの作品、同じ様に待ち切れなかったルーミー君は公開日に観に行って"The end doesn't go anywhere"・・・とがっかりして帰って来ました。多分それが良かったのでしょう。ストーリー的にはあまり期待しないで観に行ったので、そのビジュアル性を存分に楽しむことが出来ました。けど、やっぱりあの『Rushmore』の衝撃を超えることはなかったなぁ…。

1999年のインディペンデント・スピリッツ・アワードで監督賞や俳優賞を受賞した『Rushmore 〜天才マックスの世界』は、とうとう日本で劇場公開されることはなかったのですが、ビデオの方は発売されています。とある私立高校の一風(そんなモンじゃない?)変わった男子生徒が主人公(なぜか、フランシス=フォード=コッポラの甥、ジェイソン=シュワルツマンが演じています。彼、その後どうしちゃったんだろう???)。そこに、彼の同級生の父親(私が知っている中では最高の演技をしたビル=マーリー)と、彼が想いを寄せる高校教師(『シックス・センス』でブルース=ウィリスの妻役を演ったオリビア=ウィリアムス)の3人を中心とした愛憎劇(?)。とにかく、そのスタイリッシュな彼の映像&リズム感覚の才能には頭に“天”のつく面白さ。特に映画前半はかなり笑えます(1回しか観ていないので、もう一度観たら違う感想になる可能性もありますが)。それが後半になるにつれて、段々と皆壊れていってしまうんですよね。特にビル=マーリーが。最後の詳細はよく覚えていないのですが、すっごく切なくなってしまったな〜っていう感覚をよく覚えています。

この『テネンバウム』も、前半のテンポやちょっと変わった天才が主役である所などは『天才マックスの世界』と全く同じパターン。ただ、今回は一応“ファミリーもの”なんですよね。それはまだいいのですが、このファミリーにず〜っと絡みついてくるイライの存在…。コレが邪魔だった〜。残念ながら、コレって共同脚本のデメリットですよね。何を隠そう(?)、このイライ役をやったオーウェン=ウィルソンこそ、ウェス=アンダーソンと共にこの映画の脚本を書いた第二のライターだったのでした。だから、彼の役だけ随分と浮いてしまっている。この映画、テネンバウム家のストーリーだけに集中していたら、どんなにかすっきりした映画だったでしょうに…。それを考えるとと〜っても残念。私が個人的にウィルソン兄弟(ルーク=ウィルソンもリッチ役で出演しています)が嫌いってのもあるんでしょうけれど。

それにしても、アンダーソン監督の映像センスとそのテンポ、私はほんっとに好きだな〜。ただ映像がパッパッとめまぐるしく変わるってだけじゃないんですよね。その船底(?)に流れる、ヌボ〜っとした倦怠館と奇妙なキュートさがたまらないんです。“ダサいんだけどキュート”、“ヘンなんだけどチャーミング”うう、彼の作品の前だと、自分のボキャブラリーのなさが悔やまれるなぁ…(>_<)。

キャストで一番好きだったのは、普段は大っ嫌いなグエネス=パルトロウ。彼女って、ホントに映画界のプリンセスみたいな感じで耐えられない部分があるんですけれど、よくぞこの作品に出てくれました!もう、彼女以外のマーゴット役は考えられませんっっっ!!!それと、やっぱり普段は大っ嫌いなルーク=ウィルソン。彼もこの映画ではすっごく良かった。おそらく、この二人の”捻じ曲がった関係”というのが良かったんだと思います。
そりゃ〜勿論、主演のジーン=ハックマンも良かったですよ。けど、彼の場合、演技うまくて当たり前っていうのが私の頭の中にあるので、さして感動はしませんでした(^_^;)。アンジェリカ=ヒューストンも、ちょっと太ったお腹にピンクのスーツなんかがすっごく似合っているんだけど、やっぱり彼女の場合も“良くて当たり前”だから…(^_^;)。それとは打って代わって、『天才マックス…』では素晴らしかったビル=マーリーが全然いまイチ!!!ダニー=グローバーも何となくピントが合ってなかったし、ベン=スティラーも面白いんだけど、普段の彼はもっと面白いからなぁ…(^_^;)。

それにしても、この映画のプロダクション・デザイナーやコスチューム・デザイナーは最高です。特にテネンバウム家の家の中や、マーゴットのピンぼけたアウトフィットがサイコー。ベン=スティラーの真っ赤なジャージもGOOだし。けど、かなりオタッキーな趣味なので、アカデミー賞とかそういったタイプではないと思います。あと、イライのアパートのセットもかなり笑えるし、テネンバウム家の隣りがなぜか日本領事館になっているのも、私にはツボでした。
あ、あと音楽も70年代の曲が中心になっていて超オススメ。友達がCD買ったので、ダビングさせてもらお〜っと(^_^;)。

…とまぁ、ストーリーやエモーショナル的には『天才マックスの世界』の方を断然支持する私ですが、やっぱり今回は、キャストといい、バジェットといい、彼の映画技術も前回よりは格段グレード・アップしています。このウェス=アンダーソン監督、『ハピネス』や『Storytelling』のトッド=ソロンズと並ぶ、“ニューヨーク・カルト&ナード・インディー・フィルム”の旗手として、これからも大注目の人なのでありま〜す。

P.S. ちなみにこの映画、先日発表されたNYタイムズ批評家Dave Kehr'Sの選ぶ今年の映画ベスト10で、第一位に選ばれました。詳細はこちら

"Shrek"
「シュレック」 ****1/2
Dec 26, 01

Directed by : Andrew Adamson and Vicky Jenson, Written by : William Steig and Ted Elliott (I)
Voice Casting : Mike Myers, Eddie Murphy, Cameron Diaz, etc.
Official Sites :
English, Japanese

昨年、各批評家賞などで長編アニメーション部門の賞を総なめした『チキン・ラン』を製作したドリーム・ワークスSKGの自信作。今年のカンヌ映画祭では、アニメーション作品として初めてメイン・コンペ部門に正式入賞を果たす等、公開前から話題沸騰の映画でした。今年度上半期には、全米興行成績ぶっち切りの第一位、現在次々と発表されている2001年度の年間ベスト10で軒並み上位にランクインしている為、すでにビデオ&DVDが発売されているにも関わらず、現在再び劇場公開されています。

私が今の今まで、いつかは観ようと思っていたこの映画に食指が動かなかった理由は2つ。一つは、去年の『チキン・ラン』に大大大大幻滅していたというコト。だから『シュレック』に関しても、どーせドリーム・ワークスの力で、大した出来でもないのにカンヌで上映されたりベスト10の上位に入っているんじゃないかって思い込んでいたのですね。それまでのドリーム・ワークスのアニメ『アンツ』や『プリンス・オブ・エジプト』なんかも、あまりいい評判は聞いていないし…(日本語版の吹き替え、椎名桔平サンもやっているんですけれど、まだ未見(^_^;)。
もう一つの理由も作品の中身に関することではないのですが、昨年『グラディエーター』や『あの頃ペニー・レインと』、そして『チキン・ラン』などの様に、ドリーム・ワークスの作品が賞レースのトップを走っていたので、そのやっかみみたいなモノがあったのです。だから、別のアニメ作品である『Waking Life』や『ファイナル・ファンタジー』の方を応援しようという風潮が、私の周りではどうしてもあって…(^_^;)。
ま、当初『シュレック』の対抗馬になるかもしれないと目されていたディズニーの『アトランティス』は大ゴケして、同じくディズニー配給で『トィ・ストーリー』を製作したPixarの『モンスターズ・インク』が何とか対抗している様ですが(その証拠に、『モンスター…』をベスト10に選んでいる批評家は皆、『シュレック』をベスト10圏外からはずしています)、これもナカナカ苦戦模様のようで…。というわけで来年から新設されるアカデミー賞の長編アニメ部門は、おそらく『シュレック』『モンスターズ・インク』『Waking Life』の戦いになるでしょう。そうなると、政治的にどうしても『Waking…』を応援したくなっちゃうんですけどね(でもまだ観ていない…^_^;)。

…といった複雑な事情(?)から、ビデオさえず〜っと観るのをためらってきた私なのですが、同じ理由で見送って来たルーミーのC君がとうとうDVDバージョンに手を出しまして、けっこう感動していたんですよ。だから私も…ね(^_^;)。
ハイ、政治的なやっかみは置いておいて、やっぱりこの作品よく出来てます。それはもう、最初の5分を観ただけで一目瞭然。クリエイター達の並々ならぬ才能が存分に発揮されています。アイデアといい、テンポといい、コレはもう大人の為のアニメです。このアニメについての賞賛は、マスコミをはじめあちこちで十分語られているでしょうから、ここでは敢えて書かないことにしますね。
ディズニーと袂を分かってドリーム・ワークスSKGの一人となったジェフリー=カッツェンバーグの、コレでもかというディズニー・ドリーム・ワールドのパロディも、勿論見所の一つ。それにしても、大半の皮肉にはまだ賛同出来るものの、ゲップとかおならとか、○ん○とか鼻○○とか、いくらドリーム・ワールドを崩したいとはいえ、ちょっとやりすぎでは?…という部分も所々ありました。ま、基本的にはそ〜ゆ〜の、けっこう好きな私なんですけれど、あんまりのべつまくなしに続くと…ね(^_^;)。

で、いまイチだったのはそのラスト。お姫様がネタバレ→醜いままで終わるっていうのは好きなのですが、ファークド候があまりにもネタバレ→あっけなく死んでしまうのはちょっと頂けませんでした。映画全体の尺が短いのはいいけれど、これから面白くなろうっていう時にそれはないんじゃない?というか「ネタが尽きちゃったの???」みたいな。そこだけは、いくら何でもちゃんと作って欲しかったです。
キャラクター的にはエディー=マーフィーが吹き換えをしたロバが最高。あとのキャラクターは、正直言ってどれもいまイチでした。
ドリーム・ワークスでは、早くも『シュレック2』に向けての製作が開始されている様ですが、公開予定はナント2004年。3年も時間かけるんですから、第一作目に負けない様じ〜っくりといいモノを作って欲しいです〜。

"Amelie"
Le Fabuleux destin d'Amelie Poulain
「アメリ」 ***3/4
Dec 16, 01

Directed by : Jean-Pierre Jeunet , Written by : Guillaume Laurant
Staring : Audrey Tautou, Mathieu Kassovitz, etc.
Official Sites :
English & French
現在、日本&アメリカ同時公開中

今年前半、フランスで一大ブームを巻き起こしたこの映画、今年のカンヌ映画祭からまるっきり無視された為に、ヨーロッパのマスコミから話題になったそう。そのせいか、その後のトロント映画祭でもかなり話題になっていました。私がモントリオール映画祭へ行った9月頭、この映画は映画祭だけでなくすでに一般公開もされていたので、バスの横からビルの横断幕までスゴイ宣伝が展開されていたし、10月中旬スイス・オランダに行った時も、あちらではかなりの話題になっていました。

そして、オスカーを狙って満を期しての(?)米国公開。う〜ん、あまりにも前評判を聞きすぎていたので、少し熱が覚めてから観に行こうと思っていました。どうせミラマックスが押しているんだから、来年2月くらいまで余裕で上映されてるでしょうって感じで…。そうしたら、なぜかNYではヒットしなかったんですよね〜(もう皆すでにヨーロッパで観てしまってたってこと???)。公開1ヶ月足らずで上映館は大激減。今ではマンハッタン、たったの一館でしか上映されていません。これには私もちょっとビックリ。昨日慌てて観に行ったのですが、土曜夜7時の回という大抵は満席になるパリス・シアターで満席にならなかったっていうんですから、ミラマックスもかなりの期待ハズレだったのではないでしょうか?(けど、NY以外の地域ではまだまだヒットしています。念の為)
ま、ミラマックスが金の力でこの映画をオスカー・ノミネートに押しこんで、再度客足を伸ばそうという作戦を展開するのは明らかですが、見事に全米批評家賞、NY批評家賞、LA批評家賞から総スカンをくらったので、実はけっこう雲行き危ないかも鴨…(^_^;)。

内容は、日本でも話題になっている様なので飛ばします。私的な全体の感想は゛がっかり゛でした。そりゃ〜、アレだけ話題になっていたのですから、すっごく期待していましたよ(し過ぎちゃったのがいけないのかもしれないけど)。でも、なんだか誰にでも観られる”最大公約数的映画”だったので、カルトな映画オタクの私としては受け付けられないワケですね(^_^;)。
まぁ、そう言った意味で、この映画はかなり多くの人にお勧め出来る映画です。特にデート映画にはもって来いだし、落ち込んでちょっと暗い気分になってる時に観に行くも良し、普段ハリウッド映画ばかり観ているので、たまにはちょっと変わった映画を観てみたいという人の気持ちもちゃ〜んと満たしてくれますよ。ただ、映画オタク向けでない…というだけのコトなのです(^_^;)。
言わずもがな、ジャン=ピエール=ジュネ監督はマーク=キャロ監督と組んで『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』等の傑作を生み出していますが、あの毒々さに比べたら、この映画の個性なんて無いにも等しいくらい。彼の昔の作品が持つグロテスクさがたまらないという人には、不満爆発の映画であるに違いありません。ファンは自分の好きな監督がメジャーになってしまうと、それを喜ぶどころか苦々しく思ってしまったりしますからね〜。困ったモンです(^_^;)。

ま、フランスの批評家達が叩いていたという復古的・右翼的な映画っていうのは、私にはよく分からなかったのですが、確かにすんごい”一人よがり的映画”っていうのは分かる気がします。乾物屋(?)のオーナーへのイビリはいくらなんでもやっぱりやり過ぎだと思うし、アメリがニノに惚れてしまうのはまだ分かるとしても(あのスクラップノート、やっぱ彼の人柄出てるもんね)、ど〜して彼の方まで???この作品を”ご都合主義”と呼び始めたらキリがないのでしょうし、それは野暮ってモノなんでしょうけどね(^_^;)。

それでも特筆すべきは、誰もが否定しようのないオードリー=トトゥのヘップバーン的なその魅力。この映画の主役に元々エミリー=ワトソンが抜擢されていた話は有名ですが(彼女の名前Amelieも、エミリー=ワトソンのエミリーに由来している)、いや〜今となってはエミリー=ワトソン・バージョンなんてとても考えられないですね(第一、彼女が23歳の役をやるにはちょっと無理が…(^_^;)。このトトゥ、早くもハリウッド映画第一作目、"Dirty Pretty Things"の撮影に入っている様ですが、彼女にはいつまでもチャキチャキのパリっ子でいて欲しいなぁ。
ニノ役のマシュー=カソヴィッツは、何と『クリムゾン・リバー』の監督さんなんだそうで、この役にはけっこう合っていましたよね。ジュネ&キャロ映画には常連のドミニク=ピノも、やっぱりいい味だしていました。

ともあれ、『エイリアン4』から4年。ビジュアル的にはやっぱり大好きなジュネ監督なので、まだまだこれからも沢山映画を撮っていって欲しいです!!!

P.S. ちなみにこの映画の音楽はすっごく耳に付きます。サントラCD買っちゃおうかな〜〜〜(^_^;)。

"No Man's Land"
「ノーマンズ・ランド」 ****3/4
Dec 14, 01

Written and Directed by : Danis Tanovic
Staring : Branko Djuric (I), Rene Bitorajac, Filip Sovagovic, etc.
Official Sites :
English, FrenchJapanese
日本での公開は2002年4月から

今年のカンヌ映画祭最優秀脚本賞&審査員特別賞をはじめ、数々の国際映画祭で賞を獲得。また今年度ロスアンゼルス批評家賞では最優秀外国語映画賞に選ばれたこの作品、半年以上も待ちに待ち続けてやっとNYでの上映が始まりました。今年のカンヌで最高賞であるパルムドールを獲得した『息子の部屋』は、ニューヨーク映画祭でもうすでに観ていたのですが、私的にはこっちの方が好きかな。実際、下馬評でも最高賞はこっちの方に行くのではと言われていました。
ただね〜、ラストの終わり方がやっぱり『息子の部屋』の方がうまいので、結果的にそっちが受賞してしまったのも分からなくはありません。実際この作品、ある意味とってもヨーロピアンなので(特に終わり方)、アメリカではヒットしないのではないかと思います。
第一、この映画の宣伝のし方最悪!!!予告編なんか字幕なしの場面、つまり英語会話の部分を多く使っているのですが、全然この映画のいい所が出ていない!!!アレじゃ、ただのオバカなコメディみたいだよ〜(T_T)。ポスターもやっぱりチープなコメディみたいに見えるし、コピー(A lot can happen between the lines)も、まるでダメ。これじゃぁ、本当にこの映画を好きそうな人達に全然アピール出来てない。だから口コミだって望めないし…。

え〜、簡単にこのお話の前半部分だけを書きますね。時は1993年、チキとセラの二人を含むボスニア人小隊は、濃い霧で誤って敵=セルビア人の陣地に迷い込んでしまいます。セルビアからの急襲を受け命からがら斬壕に逃げ込んだチキは、偵察に来たセルビア人のニノと上司が死んだものとばかり思っていたセラの上に地雷を設置するのを目撃。彼等は、誰かがセラを動かすと爆発する仕掛けにしてしまったのです。このチキ・セラ・ニノの3人に、国連軍やイギリスのTVクルーが絡んできて、事態は大騒ぎに…。まぁ、コレがおおまかな前半のあらすじです。

まず、これ程“戦争”というモノに絡む人間模様を、深く、的確に、そして身近に描き出しているここ最近のメジャー(この映画って、アメリカでは思いっきりマイナーですが、ヨーロッパではメジャー系)&フィクション映画を私は他に知りません。セラの地雷解除方法を探そうとするチキとニノの、まさに一触即発の二人の会話。ユーゴには4つの言語があるというけれど、二人の会話は一応通じているんですよね。それどころか、小学校の同級生に共通のガールフレンドがいたりして、その辺りの会話も面白い。
ハリウッド映画だったら、こんなシチュエーションになると安易に友人同士になってしまうんでしょうけれど、さすがユーゴ出身の監督が脚本を書いただけあって、そう簡単にコトは運ばないのです。二人がそれぞれ銃を取り戻す度、銃を持っていない方に向かって「戦争を始めたのは、そっちだよな」と命がけで言わせる辺り、一応笑う部分のシーンなのですが、やっぱり笑えない戦争の本質がそこにはある。

また、『地獄の黙示録』じゃないけれど、前線にいる兵士達と後方でのうのうとやっている司令官達のおちょくりも忘れてはいません。国連軍内での分裂、イギリス人とフランス人の仲の悪さ、前線に慣れていない下級兵の行いなど、国連軍への批判も、ユーゴ人であるタノヴィック監督ならでは。英語もフランス語も分からないセルビア人兵士達に向かって、国連軍が”We came here for people”とか言って説き伏せる場面も最高。そう言いながら結局国連軍は何をやっているのか?という批判部分は、かなり痛烈なのです。
この映画は、ハリウッド映画の描く”シンプルな正義”そして”正義は必ず勝つ”というおままごとが、いかに絵に描いた餅であるのかを、これでもかと見せつけています。繰り返しますが、こうした”世界の複雑性”って、脳天気で単細胞なアメリカ人には分かりにくいんじゃないかな〜。国境紛争みたいなモノが、いまイチピンとこない島国ニッポンから来た私にも、この辺のところは少し理解が難しい部分がありましたけれど(^_^;)。

役者さんは皆素晴らしかったです。チキ・ニノ・セラ役の3人は全編を通してほぼのべつまくなしにユーゴ語を喋っていたので、本当にユーゴの役者さん達なのでしょうか?3人が3人共、よく個性を出していてホント良かった。ワイルドなチキ、ちょっとドイツ人っぽいニノ(ちなみにセルビアは大戦中、ドイツに占領されていました)、とても彼を一人では置いておけないって感じの幼馴染みタイプであるセラ。毎日TVで国際ニュースなんかを観ていると、世界中の紛争で若者達がどんどん死んでゆく報道を目にしますが、こうした若者達一人一人にも彼等なりの20何年の歴史があるんですよね。当たり前だけど、幼馴染みの女の子の話だとか、チキとセラの友情ぶりを見ていると、そうした毎日の紛争ニュースも一層色を帯びてくる様な気がします。
国連軍のフランス人や、イギリス人ジャーナリスト役のカトリン=カートリッジも良かった。彼女はマイク=リー監督の『キャリア・ガールズ』でしか見たことなかったけど、こういうコメディ役も合ってますね(それとフランス語、ペラペラ???)。彼女を通した報道体制への強烈な批判は、世界中のジャーナリスト達の胸にチクチクとささるコトでしょう。

この作品の脚本も担当したデニス=ダノヴィッチ監督は、それまでドキュメンタリーを撮って来たそうですが、この作品がフィクションの長編第一作目とはとても思えない程の凄い力量。何せコメディというのは、演技とタイミングが命ですからね〜。それを見事にこなしていたので脱帽です。テンポも全体に渡ってかなりうまい。脚本にも殆ど隙がありません。前にも書いた様に、ユーゴ人だからこそ描けるユーゴ人の悲劇というリアルさも、他の人に書かせたら比べモノにならないくらいのリアリティを持っていますし。
けれど…、何かがいま一つ足りないという部分は正直ありました。うまいんだけど、エモーションがねぇ…というか。脚本の巧さ&演出の巧さで、この映画は初監督作品とは思えない技量を見せた。けど、巧くなくとも胸に響いてくる映画っていうのは沢山あります。残念ながらこの作品はその後者ではなかった。だから私の採点評の点数はとても高いんですけれど、"mookのお気に入り映画=5つ星満点"には入ってこないんですよね(^_^;)。

この映画、日本での一般公開はゴールデンウィークになってしまう様ですが、”対テロ戦争”の延長として自衛隊を国連軍に派遣する今だからこそ、日本の人達には一日でも早く見て欲しいなと思います。国連軍がいかに名前だけの偽善に満ちたものであるか、同じ言葉を話す前線の兵士達の戦いが本当はどんなモノであるのか、そして戦争とは何か…。
タイトルである゛No Man's Land"とは、この物語の舞台になるボスニア人でもセルビア人のものでもない中間地点のことを指すのですが、本来どんな土地も誰か特定の人達だけの為にあるのではない=誰の土地でもないのです。ますます激しくなるイスラエルvs.パレスチナ紛争のニュースを見ながら、つくづくとそう思ってしまう私なのでありました。

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