*** mook's Favorite Films 9 ***
mookのお気に入り映画 9

お気に入り映画のリストから、ランダムにピックアップして紹介していきます。

I'll introduce some films from my favorite films list
time to time.

"Hush!"
ハッシュ!
May 02, 02 (Last Updated July 13, 02 - 2回目の感想は下に)

Written and Directed by : Ryosuke Hashiguchi
Starring : Reiko Kataoya, Seiichi Tanabe, etc
Official Site : Japanese
渋谷シネクイントにて。

昨年のカンヌ映画祭を初め、数々の主要国際映画祭で招待上映されて来たこの映画、待ちに待っての日本公開です。いや〜、そりゃぁもう期待はしていたんですよ、1年前以上から。前作『渚のシンドバット』はNYでも絶賛されてて私も大好きだったし…。けど、今回の作品が前作と比べてここまで飛躍的にレベルアップしているとは夢にも思いませんでした。

この作品が、現代人の孤独やその傷ついた姿を描いて共感を呼ぶであろうということは容易に想像出来たし、その部分で評価されるであろうということは初めから分かっていました。だからその部分について、この感想文では敢えてスキップしますね。そ〜いうのはネットや他のメディアで、すでにうんざりする程書かれているでしょうから。
私はね〜、もしこの映画が“ただそれだけ”の(主人公たちのトラウマ&アダルトチルドレン的な部分や、ゲイだのおこげだのいう部分にフォーカスが当たっている)映画だったら、むしろ嫌いになってたんじゃないかな。それに役者さん達の演技は全員うまくて当たり前だと思ってたし、脚本もよく書けてるみたいのを最初に聞いてしまっていたので、どちらかと言えば厳し目で見ていたと思います。だから、私がこの映画に“感心”してしまったのはむしろそれ以外の部分。

まず最初に私、ビジュアル面でこの映画をとっても好きになってしまいました。“ビジュアル”と言っても、この映画の撮影法ってまるで奇抜性はないし、宣伝で見せてる様なオシャレな渋谷系映画でも“実は”ないんです。
何と言ってもこの映画、非常に“どっしりと”撮ってあるんですね。フレームといい照明といい、不思議な安定感がある。どのショット一つを取ってみても、なぜか“私好み”の構図なんですよ。私は撮影部に専門的知識を持っていないので、具体的な説明は出来ないのですが、あの自然な重厚感はなんなんでしょうね〜。

それと、橋口監督って足フェチですか〜〜〜???何だか妙に足をメインにしたショットが多いんですよ。友人曰く、この映画はトリュフォーの『恋愛日記』を意識しているかもしれない(田辺誠一キャラの職業から言って)そうなので、監督がわざとそういうショットをいくつか挿入した可能性は有り得ます。いやはや、足だけじゃなくてとにかくめちゃくちゃ低い視点のショットがけっこう沢山ありました。
撮影にしても何気ない照明が非常にウマいし、美術部のセットも何か妙に安定感があるんですよね。懲り過ぎてるわけでもないし、さりげな〜くディティルを見せている。う〜ん、それだけスタッフみんなの息が阿吽の呼吸で合っていたのかな?映画全体からそんな雰囲気を感じました。

そういったさりげないスタッフのコラボレーションから生まれた、これまたさりげないリアリズム。恋人同士の会話、親子・親族同士の会話、そして他人同士の会話。脚本のリアリティが非常にツボをついているんですよね。皆さんご存知の様に、この脚本の大部分は監督自身の私生活が元になっているのですが、ただ自分の周りを描いているという以上の、もっと広い意味でのリアリズムがそこには横たわっているのです。特に恋人同士の会話は、それがゲイの恋人同士であるにせよ、普通のカップルの会話と何ら変わりはないし、親戚同士の会話もありきたりながら妙なリアリティがあったし…。
それと、脚本に関して言えば、非常にメロドラマちっくな内容でありながら、シーンとシーンのカットを大胆にバッサリ切ることで(部分的にはそれが“逃げ”に見えることはあっても)、そのジメジメさを取っ払っていた部分にはかなり好感が持てました。

さてさて、その役者陣について。片岡礼子って私は初めて観たんですけど、いいですね〜〜〜。このキャラって、大胆でモロくて非常に“分けわかんない”キャラなんですけれど、彼女のお陰でめちゃくちゃ“分けわかる”キャラになっていましたよ。
そして田辺誠一。う〜ん、このキャスティングは大正解でした〜〜〜。私の場合、まともに彼を見たのは『害虫』くらいでしかないんですが、彼がこ〜んなにウマイ役者さんだったとは〜〜〜。…というより、このキャラにぴったりとハマってますね〜。うん、片岡礼子が彼をタネにして子供を欲しがるの分かるし、つぐみのキャラが彼のストーカーになっちゃうのも分かるっ!!!
光石研は相変わらず味があってますますファンになっちゃうし、『月光の囁き』のつぐみちゃんも相変わらずキレてますね〜。それにしても主演以外で一番印象に残ったのが秋野陽子。う〜〜〜〜〜〜〜ん、このキャラは最高だったよ〜〜〜〜ん。彼女ってあんなにウマイ役者さんだったんですか〜〜〜???けど、最後のオチがあまりにあっけなくて残念(T_T)。

…とまぁ、べた褒めしまくってしまいましたが、主演3人のフォーカスがいまイチ分かりづらかったり、勝弘の兄&義姉の最後のオチがいまイチだったり、映画が全体的に長いという批判には私も同意します。確かにこの映画、あと15分は削れましたよね。例えば寺田農演ずる父親とのシーンとか…、あそこはやっぱかなり中途半端だったかな?
けど、賛否両論のあの終わり方について、私はあれで全然良かったと思っています。その先の結末を急ぐ必要は全然ないと思うし、橋口監督、言われなくても、ぜ〜ったい“その後”の彼らについては何らかの形で描いてゆくと思いますよ。だってある意味、この映画って『渚のシンドバット』の続編みたいなモンですからね〜。

ともあれ、公開1週間目の午後の回に観に行ったのですが、うわ〜〜〜〜めちゃめちゃ激込みでした。確かに宣伝の仕方が渋谷系ターゲットみたいな感じだったので、若い女性を中心にこういった映画が広く観られるのはとても喜ばしいことだと思います。批評家ウケもそれなりにいい様ですが、私としては去年批評家が達イチ押ししてた『ユリイカ』よりも、こっちの方がず〜っと好きなんでね〜。ますます頑張って今年のベスト10には食い込んで欲しいと思います。

2回目(July 13, 02の感想)

その映画について思い出すだけで、思わずにやにやしてしまったり、胸が熱くなったり、涙腺が緩んでしまったりする映画があります。この『ハッシュ!』は、その全部。殊に涙腺の緩む頻度は、映画を観終わって2ヶ月以上経ってもあまり減ることがなかった様な気がします。別にカンドーの映画であるとか、悲しい映画ではないんですけどね。何だろう?この映画の持つ“世界観”に、暖かさを併せ持つ限りない力強さを感じてしまうからなのでしょうか。
そう、この映画は決して“癒し”とかいう言葉で片付けられてしまう、甘っちょろい映画ではないのです。現実から逃げているどころか、その現実を笑い飛ばしてしまう力強さを持っているし、その現実と向き合うリアリティと同時に、また監督独自の“世界観”というモノをしっかりと持っているのです。

1回目にこの映画を観に行った時は、いわゆるハリウッド・フォーミュラを頭に叩き込まれた、アメリカ人の友人と観に行きました。ハリウッド・フォーミュラが頭の片隅で常にカタカタと機能しまうのは私も彼女と全く同じでして、「あ〜、このシーンいらないよなぁ」とか、「ここんトコ間延びしていない?」とか、観終わってから彼女と話した感想の中心は、そんな話題が中心になっていたのです。確かにそういう見方をしてしまうと、この映画ってすっきりしない部分が多々あるのですよ。『ハッシュ!』が日本での評に比べて海外での評が低めなのは、こんな所に原因があるのかもしれません(日本の批評家が誉め過ぎてるという言い方も出来るけど)。
そう、だってこの映画の良さを理解するのには、やっぱり日本語の微妙なニュアンスとか、今の日本社会の空気とかを肌で知っていないとね〜。前回観た時も感心したことはしましたが、今回改めてこの映画の脚本の巧みさに感嘆してしまった私なのでした(それでもやっぱり構成的には修正の余地があるとは思いますが…)。

今回2回目の『ハッシュ!』を一緒に観に行ったのは、普段日本映画には殆ど感心のない30代の女の子二人。観終わった後、三人で飲みに行ったのですが、彼女達の興奮のしように逆に私は驚いてしまいました。私なんかよりずっと細かい所を見ているし、覚えてるし、カンドーしてるっ!いや〜、『ハッシュ!』が、日本映画としては稀に見るロングランヒット(今月末から上映館を新宿武蔵野館に移して少なくとも10月までは続映決定)を記録しているのも頷けますね。
彼女達との話で話題の中心になったのは、やはりその会話のリアリティ。前にも書いたと思いますが、やっぱり主演のゲイカップルの会話は普通の(ポリティカリー・インコレクトだなぁ…)カップルの会話と本質的には全然変わらないんですよね。そこには弱気の駈け引きがあったり、やけくそがあったり、無言の愛情表現があったりする。直也が「お手上げ〜」といってスネたり、勝裕が「生き物にさわるのって、イイね」と言って仔犬を抱き上げ、その仔犬を直也に返すシーンとか…。この辺りがやはり、ゲイの人達だけに共感出来る映画という枠を越えて、広く沢山の人々に受け入れられているのだと思います。

また、コレはその一緒に観に行った女のコが言っててハッとしたのですが、とにかくこの映画って、全てのシーンにオチ…というか答えがないんですよね。ソレについて私は1回目の感想↑で、(それが“逃げ”に見えることはあっても…)と書いているのですが、彼女にとっては、それが逃げに見えていない。何とゆ〜か、それこそが人生のリアリティとゆ〜んですよね。こっ、コレって、あの蔡明亮監督が『河』について言っていた「人生に終わりがない様に、映画のストーリーも終わりなく続いていく」ではないですかぁぁぁっ。う〜ん、「各シーンには必ず何らかの“オチ=決着”がなければいけない」とゆ〜ハリウッド・フォーミュラを頭に叩きつけられた自分を、改めて再発見してしまいました。そう言った意味で、この映画は“ハリウッド・フォーミュラ”で観るか“リアリズム”で観るかによって評価は180度違ってしまうのかもしれません。一緒に観た人の違いによって、作品の印象がこうも違うとはね〜〜〜(^_^;)。

それと、片岡礼子については、この同世代の女性2人が“共感”よりも冷静に彼女の演技について誉めていたことが、ちょっぴり意外でした。映画オタクなんかじゃなくても、観客とゆ〜のは役者さんの演技をキビシクみているんですね〜。でも、彼女の演技が素晴らしかったというのは、やっぱり皆の一致した意見のようで。
あと、秋野陽子はやっぱりうまかったなぁ。それと今回、沢木哲クンってやっと初めて顔と名前が一致しましたよ。『ボーダー・ライン』『害虫』の時とは全く違った印象だから不思議。髪型もほとんど同じだってゆ〜のにね。

今回は上映の後に、橋口監督、是枝監督、篠崎監督とゆ〜仲良し三監督のトークショーがあったのですが(皆40歳とゆ〜同世代!ちなみに、この7月13日は橋口監督の誕生日でもあったので、ちょっとしたお祝いもありました)どちらかと言えばマジメでシリアスな映画を作る是枝&篠崎監督に比べるとやっぱり橋口監督とゆ〜のは、ミュージカル好きのエンターテイメント系なんですね〜。三人で『タイタニック』を観に行った時、橋口監督だけ一人で泣いてたとゆ〜エピソードには笑えました(^_^;)。

…とゆ〜ワケで、まだまだロングランが続きそうなこの作品、ヒマとお金が許せばもう1回観に行ってもいいかな、と思っています。どの映画でもそうだけど、観る度に違う発見がありますからね。そうそう、今回一緒に観に行った女のコも、床に落ちていたティッシュの数を数えて前の晩の二人のことを想像していたりと、けっこ〜皆細かいディテールを見てるんだなぁ。そう言ったディテールなんか見出したらキリのない映画ですよ、ホントに(^_^;)。

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