*** mook's Favorite Films 8 ***
mookのお気に入り映画 8

お気に入り映画のリストから、ランダムにピックアップして紹介していきます。

I'll introduce some films from my favorite films list
time to time.

"The Piano Teacher"
La Pianiste
ピアニスト

March 31, 02(Last Updated Aug 02, 02)

Written and Directed by : Michael Haneke
Starring : Isabelle Huppert, etc
Official Site : Japanese
日本での一般公開は2002年2月2日から。アメリカでは3月29日より。

なっ、なんとゆ〜、なんとゆ〜スゴイ映画だぁぁぁぁぁっっっっ!私ってば、めちゃくちゃ気に入った映画に出会ってしまうと、途端にボキャブラリーが吹っ飛んでいってしまうのです。友達に”How was it?”って聞かれると、ただ”Great, great, great, great film!!!!”としか言えない自分が情けない〜〜〜〜(>_<)。

え〜、この映画が昨年のカンヌ映画祭で、グランプリ・主演女優賞・主演男優賞の三冠を獲得したのは、私がココに書くまでもないことだと思います。驚いたのは、カンヌでこれだけの賞を取って、ヨーロッパであれだけヒットしていながら、ほぼ一年近くもこの映画にアメリカの配給会社が付かなかったコト!!!!!!実はこの映画、2月の初めにリンカーン・センターにて“配給の付かなかった素晴らしい映画特集”の1本として、たった1回上映されたのです。そうしたら、口コミで評判が盛り上がりまくり、NYタイムスを初め各新聞社の批評家達も大絶賛しまくった為、一昨日小さな単館でオープンするなり連日連夜チケット売り切れ状態の大盛況!!!私、あの映画館で人があんなに何ブロックも並び捲くってるの初めて見ましたよ〜。友達と土曜日に観に行った時は、30分も前に7時45分の回が売り切れ。で、次にトライしたのが日曜の夜だったのですが、侮って45分前に行ったら、もう売り切れてました(^_^;)。しょうがないので、日曜の夜だとゆ〜のに10時半の回を観てしまったというワケ。う〜ん、この分だと来週辺りから上映館は確実に増えますね。この調子で行くと、少なくともビレッジボイス、今年のベスト10入りは確実。うまくいけば、来年のアカデミー賞外国映画賞ノミネートくらいは行くのではないでしょうか。

あ〜、長すぎる前置き…(^_^;)。とにかく良かった!私的にはほぼ完璧に近い映画!!!!!!!いや〜、スイスで観た友達から「良かったよ〜」と話は聞いていたのである程度は期待していましたが、ココまでいいとは!!!
ま、これはあくまでも私的好みですので、あしからず。とにかく、“もの凄くヘン”でいて“ユーモアがあり”、同時に“むちゃくちゃリアリティがある”という面で、この映画は私の大好きな蔡明亮監督の映画によく似ています。私恥ずかしながらミヒャエル=ハネケ監督の映画を観たのって、コレが初めてなのですが、他の映画もこんなんなんでしょうか?だったらハマリそうだなぁ…(^_^;)。
まずこの映画のコンテンツには、病的な行為が幾つか出てきます。そう、主人公は“フツーの眼”から観たら、かなり病んでいる。けど、映画を観ているうちにそれが段々愛らしくさえなってくるのです。それと、笑えるシーンも多数。コレがまた思いっきり声を上げて笑いたくなるシーンが沢山あるんですよね。
それでいて同時に、彼等のキャラや生活感に妙にリアリティがある。特に男と女の生理の違いを描いている部分なんか、めちゃくちゃリアルなんですよ。私にとっては、『存在の耐えられない軽さ』『愛情萬歳』に次ぐくらい歴史に残る、究極の恋愛映画の様な気がします(大袈裟?)。

そ〜なんですよね。この映画の脚本ってハネケ監督自身が書いているんですけれど、このヒトど〜してこんなに女の心理が分かるのだろ〜???劇中には確かにサドとかマゾとかポルノとかナイフとかゲロとか血とか、表面上ショッキングなビジュアルが沢山出てきます。けど、この映画で重要なのは、そんな病的な部分じゃないんですよ。セックスをする時のお互いの心のスレ違いとか、愛情を表現したところでそれが時には逆効果になったり、素直になれなかったり、素直になりすぎて失敗したり。頭の中の性世界だけで生きてきた孤高の中年女性(そう、プライドだけはめちゃ高い)と、すっごく年下だけど現実世界でちゃんと根を張って生きている若い青年…。う〜ん、こ〜ゆ〜組み合わせってドラマチックに見えるけど、実は現実世界にもゴロゴロしてたりするんですよね(^_^;)。

まずヒロインのエリカ。う〜ん、彼女の母親との関係はハンパじゃないぞぉぉぉ。ラスト20分くらい前のベッドシーンは、ただただ「スゲ〜」って感じでした(嗚呼、ボキャブラリーが…(^_^;)。非現実的なまでの現実性ってこ〜ゆ〜コトをいうんですよね。この辺も蔡監督の描く、歪んだ家庭との共通点が多々あるし。
彼女の奇奇怪怪な(?)行動も、映画をどんどん観ていくうち段々と愛着が湧いて来てしまうのは私だけでしょうか?最後はね〜、「そう来るか〜???」って感じで賛否両論分かれると思いますが、私はアレで良かったと思う。とにかく鬼気迫る演技でした。あ、でも中盤彼女がピアノの演奏を聞きながらわずかに何度も舌を出したりする、そ〜ゆ〜些細な演技もすごく気に入ってしったんですよね〜。

ワルターの役も良かったです〜。実にリアルなキャラでした。映画の冒頭はただの王子様〜って感じなんだけど、だ〜んだんと現実味を帯びていくのね。そうそう、いるいるあ〜ゆ〜ヤツ。何をやらせてもパーフェクトに出来るし、その自信から来るのか、性格も素直でとにかくいいヤツ。そして悔しいことに彼の言うことって、全部“正論”だったりするんだよね。エリカの方は40歳を過ぎても“恋する乙女”のままなんだけど、ワルターの方は“吐き返して来る女なんて初めてだ”とか言って、何気に女性経験の豊かさを吐露している。彼にとって彼女が恋愛に不器用なのは、実は全然マイナスではないのだけれど、その辺りがエリカの自信過剰&過小の振り子の振幅にうまく嵌り込んでいかない…。彼は彼なりに一所懸命誠意を尽くしているんだけどね〜。でも噛みあわない(>_<)。嗚呼、こんな究極の恋愛映画、ココ最近あったでしょうか〜〜〜???

う〜ん、その演出力だけでなく、脚本の構成、各シーンのテンポ、どれを取っても私にとってはパーフェクトに近い映画でした。これからハネケ監督の過去作品、いっぱい見たいな〜。日本では昨夏、早くも彼のレトロスペクティブが開催されていたんですよね。思わぬ所で、すっごいめっけモノをしてしまった気分です。
勿論、そのクラシック演奏だけでも十分楽しめる映画だし、嗚呼久々に友達に薦め捲くりたくなる映画に出会いました。私も、も一回観に行こ〜かな〜〜〜。

2回目(May 20, 02)の感想。

観てしまいました〜、2回目を。日本では2月の頭から5月の末まで上映していたので、何だかんだ言ってまるまる4ヶ月もロングランしていたのですね。う〜ん、二流館に落ちたらまた観ちゃおうかなぁ。けど改めて観ると賛否両論とゆ〜か、好き嫌いのキッカリ別れる映画ですね。今回一緒に観たヒトはめちゃ気に入ってましたけど。そうそう、この映画って内容はむちゃくちゃシリアスなんだけど、鑑賞中は思いっきり笑ったり、う〜んと唸ってみたり、ウゲゲとリアクトしてみたり、音楽に合わせてノッみたりするのが正しい見方なのではないでせうか。私達が観た日の夜の回は、それこそ中年齢層の人達が中心だったのですが、皆クソ真面目にスクリーンに見入っていたんですよね。声出して笑ってたのって、私達だけじゃなかったかなぁ…(^_^;)。

1回目の感想にも書きましたけど、私はこの映画の終わり方、しごくポジティブに捉えてしまうんですよね。だから、いわゆるこの映画が嫌い派の人達が持つ“観終わった後の閉塞感”とゆ〜モノが全然ないんです。ここの所は書くとラストのネタバレになってしまうので、後日機会があればまたネタバレの部屋にでもゆっくり書いてみたいのですが…。

それと私、今回この映画を日本で観ることが出来て本当に良かったと思っています。…とゆ〜のは、この映画で描かれているエリカという女性像が“程度の差はあれ”、日本人女性の多くが持つ内面の姿と根本の所で通じるモノが多分にあると思うからなんです。一つは、母親を初めとする社会や権威による極端な抑圧、そしてもう一つはその反動としての極端な妄想の肥大。この“抑圧”とその反動による妄想の“膨張”という両極端な2つのキーワードをよりリアルに理解出来るのは、そりゃ〜もうアメリカ人ではなく日本人の方に決まってますよ。
このエリカの異常にも映るファンタジーの膨張は、日々の抑圧があるからこそ成り立つのであって、そこを見落としてしまうと彼女はただの“病気”でしかなくなってしまう。けど、エリカは決してビョーキではないし、精神を病んではいるワケでもないのです。ただ、精神的に成長しないまま身体だけが歳を取ってしまった。そう、エリカの姿こそが昨年、日本でもそしてアメリカでも話題になった精神的に未熟なまま大人になってしまった30代の日本人女性の姿を本質的に映し出しているのではないでしょうか。

私に言わせると、この映画の最大のテーマは“妄想の崩壊”という所にあります。何十年にも渡って肥大しまくってしまったエリカの抑圧に裏付けられた妄想がボロボロと崩れていく…、けどそれは決してドラマティックにではなく、無残に、みっともなく、もう滑稽ですらあるのです。それまで孤高のプライドを保ち続けて来たエリカにとってこれ以上の屈辱はないのですが、現実はちっとも彼女の見方にはなってくれない。そして彼女はどうするのか…。

この映画のウリとか話題って、1)20歳も歳の離れたカップルのヨーロッパ的情愛映画とか、2)サドとかマゾのドロドロ映画とか、3)女性の精神分析映画みたいなのが多いみたいですけど、私的にはどれも全くの的外れでしかありません。私に言わせてみれば、近年これだけ“ほんとうの現実”に向き合った映画、しかも“現実の恋愛”に向き合った映画が一体どれだけあるのかと声を大にして言いたい。そう、この映画のテーマは恋愛ファンタジーでもなく、SMでもなく、精神分析の世界でもない、それらを全てぶち壊す恐ろしい(?)“現実=リアルワールド”にこそあるのです。

そのリアリティを保つため、この映画には気が遠くなる程の長廻しシーンが多くなっています。…でありながら、改めてこの映画をもう一度観ると、脚本が非常に緻密に練られているし、構成もしっかりと組まれていることがよ〜く分かるんですね。実際、最終稿の脚本は原作とは随分違っているらしいのですが、また原作を読む機会があったらココに追加感想を書きたいなと思っています。

3回目(July 30, 02)の感想。

今回で劇場鑑賞もすでに3度目になるのですが、う〜んこの映画なら10回でも観たいくらい〜〜〜。けど、それは決してこの映画が観ていて気持ちのよい作品だからというのではありません。 この映画は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と同じく、むしろ見ていて辛いシーンの方が圧倒的に多いのですが(一緒に観てくれた友人の感想は一言、“痛い映画だね”でした)、何なんでしょ〜ね〜。私にとって少なくともこの映画は、”密室&暗闇で集中して観たい映画”、言い換えれば”その映画の世界にどっぷりハマり切って観なきゃ”の映画と言えるんじゃないかと思います。
実はこの二カ月、知人からこの「ピアニスト」の原作本を借りて読んだのですが、今回の鑑賞では、原作とめちゃめちゃ違うその脚色&演出にとても関心してしまいました。

まず最初に。原作ではエリカと彼女の母親との確執が全体の殆どの部分を占めているのですが、映画ではむしろウォルターとの関係が中心になっているので、母親とのエピソードは時間的にとても少なくなっています。なのに、短いシーンで凄い密度に凝縮されているのですよ、コレが。原作では殆どなかった母親の台詞は、脚色のミヒャエル=ハネケ監督によるモノだと思うのですが、う〜ん、コレがまた絶妙のうまさなんですね〜〜〜。
ウォルターとの関係も、原作よりより具体的だし、それはハネケ監督が男性である故なのか、ウォルターの台詞も原作よりずっとリアルなモノになっています。あと、教え子とのエピソードって、実は原作には全くないのですよ(グラスのエピソードは、ウォルターに近付くフルーティストの話として一応は出て来るのですけれど)。
この映画って改めて観ると、ワンシーン・ワンカットのシーンが殆どなので、かなりアドリブなんかも入っているんじゃないかとは思うのですが、それにしてもよく書けた脚本だなぁと思います。原作本付きの脚本って、あまり脚本としての良さが認められるこが少ないのですが、この映画ではもう殆どオリジナルと言ってもいいくらい脚色の妙が出ていると言わなければなりません。

で、一つ面白いなぁと思ったのは、原作を書いたイエネリクが元々女性の持つ男性的な部分にこだわってこれまで本を書き続けているのに対し、やはり男性であるハネケ監督が脚色すると、エリカのキャラクターがどうしても女性的になってしまうのですね。
例えば覗き部屋のシーンやドライブ・イン・シアターのシーンなど、下手して描写すると ただの変態にしか見えないのですが、それがハネケ流では“孤高の女性(またはその対をなすモノ)”として、ごく自然に描かれています。けどコレって、原作では一応エリカの“男性的な部分”の象徴であったりなんかして。今回この部分にはかなり注目して観た私ですが、やっぱりハネケ流はハネケ流(ある意味ではイザベル=ユペール風)だったなぁ。コレは一緒に観た友達も「男性的には見えない」と言っていました。

それと、ラストなのですがエリカがネタバレ→ナイフで刺す胸の左上というのは、指の神経が集中している部分という説、実は原作には書いてないのです(コレってもしかして常識でした???)。シーンとしては、ロケーションがコンサートホールであるということを除けば原作も全く同じであるので、この辺りの解釈は、原作の読者も含めて多種多様にあるのだと思います。私の場合、このあっけなさが凄く好きなんですけどね。確かに一回目に観た時は、「はぁ〜〜〜???」という部分もかなりあったのですが、何度も観るうちに、「そ〜、そ〜、コレがパーフェクトなラストだよ〜〜〜」と思える様になって来ました。

ともあれ、NYではいまだロングラン上映中(もう4ヶ月を越えましたね)、日本でもどんどん二流館での上映が予定されていますから、今年の外国映画ベスト10に入ってくるのは必至ですね〜〜〜。さてさて、この“ピアニスト症候群”(私の周りにはマジでけっこういるのですよ)、どこまで広がってゆくのやら…。

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