*** Theater, Play 3 ***

お芝居の感想ページです。
新しいモノから上に来ます。

"Tony Award 2001"
トニー賞2001
06/04/01 (Last Updated 06/26/01)

Official Site of Tony Awards,
NY Times all review list

<<「ザ・プロデューサーズ」の年>>

…というわけで、今年のトニー賞。予想通り、「ザ・プロデユーサーズ」旋風が吹き荒れました〜。
この作品がベスト・ミュージカルを獲得するのはあまりにも眼に見えていたので、こうなって来ると、もう最後の焦点は、幾つ獲得出来るか???ということ。「ザ・プロデューサーズ」は、前代未聞の15ノミネートを記録したのですが、新聞や雑誌でも「全部取れるか???」という様な話題ばかり。そのうち3部門が同じ部門で重なってノミネートされている為、15コ全部を獲得するのは物理的に言っても無理な話なのですが、それでも「取れるんじゃないか?」というジョークまで飛び出す始末(6月1日NYタイムスより)。
結果は皆さんご存知の通り、史上最多(それまでは「ハロー・ドーリー!」の10部門獲得が最高)の12部門受賞、結局ノミネートされた全ての部門(新作ミュージカル作品賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・作詞&作曲賞・脚本賞・演出賞・舞台美術賞・照明賞・コスチューム賞・オーケストラ賞・振り付け賞)でトニーを獲得しました。最後までどっちか?と言われていたネイサン=レインvs.マシュー=ブローデリックの主演男優賞獲得合戦は、結局ネイサン=レインに。レイン氏は、「この賞はマシューと一緒でということで受け取らせて頂きます」と言っていましたが、それでもM=ブローデリックの複雑な表情はやっぱり隠せていませんでしたね(^_^;)。

私がこの中で一番嬉しかったのは、コリオグラファーであるスーザン=ストロマンの受賞。彼女は、日本で公開中の映画「センター・ステージ」(同名映画がもう一作品ありますが、ニコラス=ハイトナー監督の方です)のコリオグラファーも務めた人。昨年の「コンタクト」に続き連続2年目の受賞なのですが、これまで2年連続で受賞した人は彼女の他にまだ2人しかいないのだとか。
さてさて、この「ザ・プロデューサーズ」。スタッフのほぼ全員がトニー賞受賞経験者なのですが、それでいて、受賞者のスピーチでも何度か話されていた様に、これだけのベテラン・スタッフを集めていながら“Revolutional”で“Breaking Rules”することを恐れない、メル=ブルックスの才能と度胸が炸裂した作品だと言える様です。

すでにお聞きの通り、「ザ・プロデューサーズ」は、メル=ブルックスが監督した1964年同名映画のミュージカル化。ブロードウェイ・ミュージカルというのは、一般に公開される前、ライターや批評家達を中心にお披露目をする「プレビュー期間」というのがあるのですが、その時期すでに普段は辛口批評で有名なNYタイムスの批評家達なんかが大絶賛してしまった為、一般オープンと同時にチケットが売り切れまくってしまったというフィーバーぶり。私もオープン前は気軽に観に行こう〜♪なんて思っていたのですが、今となってはネイサン=レインとマシュー=ブローデリックの契約が切れる、来年の頭までのチケットですら手に入らないのではないかと危惧しています(^_^;)。
お話は、N=レイン扮するインチキ・プロデユーサーがM=ブローデリック扮する会計士をたぶらかし、ブロードウェイでは絶対に成功しないような作品を上演して、早々と芝居をクローズさせ、集めたお金をまんまと自分達のモノにとたくらむが…といった内容のコメディ。劇中劇がヒトラーをパロった芝居であったり、ショー・ビジネスの舞台裏を皮肉ったモノ、そしていわゆる“ポリティカリー・インコレクト(政治的不適切)”のブラック・ユーモアがたっぷり効いている所が人気の秘密なのではないかと思います。

もう一つの成功の秘密は、ハリウッドのバック・アップ。最初は気乗りがしなかったというメル=ブルックスを口説き落としたのは、かのデビッド=ゲフィンなのだそうで(そう、あのドリーム・ワークスSKGのGの人です)。
なのに、作品賞の受賞場面でミラマックスのハーベイ=ワインスティンが壇上に上っていたのはなぜでしょう???(DW−SKGの商売仇なんですけれど…)この辺りはちょっちナゾでした。ともあれ、「ザ・プロデユーサーズ」は、すでに興行記録を次から次へと塗り替えまくる、それこそ“お化けミュージカル”となってしまいました。

まぁ、とにもかくにも、ここまでやってくれると…(^_^;)。メル=ブルックスは、結局、製作・脚本・作曲の3部門を一人で取ってしまったのですが、2回目の受賞の時なんか「See you in a couple of minutes(2〜3分後、また壇上で会いましょう)」とか言ってました。余裕アリすぎ〜。また、「This is the most difficult thing in my life…being modest. (謙虚なフリをしなくちゃならないなんて、これまでの人生でこんなに難しかったことはない)」という彼のスピーチも、歴史に残る名言(?)となるでしょうね(^_^;)。
また最後の作品賞受賞では、「I want to thank Hitler for being such a funny guy on stage(舞台でこんなに可笑しいヒトラーに感謝しなければ)」と言った後「Behind me you see a phalanx - an avalanche - of Jews who have come with their talent, their money, but most of all their spirit and their love for the theater.(私の後ろには、その才能またはその財により、しかしその殆どが舞台への愛と魂によって結集したユダヤ人の前衛隊がいる。)」とも言っていました。ハリウッドのビッグパワーの殆どがユダヤ人であることは有名ですが、お芝居の世界もやっぱりユダヤ人が大勢を占めているんですね。今更ながら、つくづくそうなんだ〜と思ってしまいました。
最後にこのコーナー、今回の受賞式ではホスト役も務めたM=ブローデリック(勿論N=レインとコンビで)のジョーク「I’m the king of the universe! (ジェームズ=キャメロン監督が、「タイタニック」で作品賞を獲得した時、同作品のセリフから「I’m the king of the world!」と言ったのをジョークっています)」で〆ませう。

<<その他のミュージカル>>

今年オープンしたミュージカルは、ホントに運が悪かったですね〜(^_^;)。「ザ・プロデューサーズ」の次に多数のノミネートを獲得した「フル・モンティ」、それでも10部門でのノミネートと、例年で言えば快挙の数字だったと思います。こちらも同名映画のミュージカル化。映画ではイギリスだった舞台を、NYの郊外に移しています。注目は、ラストシーンの全裸パート。コレをトニー賞でお披露目(?)するかどうかも話題の一つでしたが、やってくれましたよ(アソコは帽子で隠していましたが、本当にパンツも脱いでいました〜^_^;)。
結局賞という賞は全部「ザ・プロデューサーズ」に持って行かれてしまったものの、私は個人的に、今回のトニーは「フル・モンティ」にとって良い宣伝になったのではないかと思います。「ザ・プロデューサーズ」のチケットが取り難い分、取れなかったお客サンはけっこう「フル・モンティ」に流れるのではないでしょうか?(後日談:やはりその後、「フル・モンティ」のチケット売上は2倍以上に伸びたそうです。)

そうそう。このトニー賞受賞式は、もちろん賞取り合戦も見所の一つですが、TVで頻繁にクリップが流れる映画とは違って、ショーのハイライトが見られるブロードウェイの貴重なショーケースと言う事も出来ます。
トニー賞の受賞式が終わってからの2ヶ月程は、各劇場の正念場。賞を沢山受賞したショーのお客が増えるのは勿論ですが、賞を逃しても、受賞式でのハイライトシーンの印象が良ければお客の数は増えていきます。従って、その逆も勿論アリ。今回ノミネートの数では「ザ・プロデューサー」「フル・モンティ」に続いた作品は「Class Act」だったのですが、そうとう印象薄かったな〜。コレは秋までもたないんじゃないかと…。(後日談:ナント、受賞式からわずか1週間でクローズしてしまいました。)「Jane Eyre」は、この受賞式で観るまでは、けっこう好印象持っていたんですけどね。私には意外とマイナス・アピールだったなぁ。でも、この手のミュージカル好きそうなヒトって割と沢山いそうだから、まだまだイケルかも???

リバイバル・ミュージカルは、トニー・ノミネートぎりぎりの期間にオープンした「42nd Street」。受賞式第2幕目のオープニングとして、キャスト一同が42丁目から会場であるラジオ・シティ・ミュージックホールまでコスチューム付けて踊りながら地下鉄に乗るシーンは、けっこう笑えました(^_^;)。全く私好みのミュージカルではないけれど、かなりショーの宣伝にはなったのではないでしょうか。「ザ・プロデユーサーズ」が唯一ノミネートを取れなかった主演女優賞もちゃっかり頂いていましたし。
他は、昨秋オープンして興行成績もほろろの「ロッキー・ホラー・ショー」。私としては、いまイチ、パンチの足りなかった印象だけど、この授賞式で巻き返しなるか???(後日談:受賞式でグエネス=パルトロウが好印象を持っている映像が映し出された為、チケット売上が急上昇。「グエネス効果」と呼ばれました。)グエネス=パルトロウの母親、Blythe Dannerが主演女優賞にノミネートされて話題の「Follies」も、他に話題取りがないのでいつまで続くことやら…。
こうして見ると、今年のミュージカル、全体的にはけっこう不作の年であったと言えるのではないでしょうか。「ザ・プロデユーサーズ」の大成功によってミュージカル業界も一見はなばなしく見えるんですけれど、結局は彼等の一人勝ちだから、業界全体としては意外とマイナス年なのでは???

<<ストレート・プレイ>>

ドラマ・デスク・アワードの結果を受けて、こちらも「プルーフ」の総ナメかと予想されていた演劇部門。蓋を開けてみれば、けっこう「Invention of Love」なんかが健闘していましたね。
すでに今年のピューリッツア賞等も受賞している「プルーフ」は、新作作品賞、演出賞、主演女優賞の主要3部門を獲得。他にも助演男優賞にダブルノミネート&助演女優賞にもノミネートがされていましたが(つまり4人のキャスト全員がノミネートされていたということ)、結局賞には届かず。面白かったのは、演出賞を受賞したダニエル=サリバン氏のスピーチ。「There must be some mistake, I had nothing to do with 'The Producers’.(これは何かの間違いに違いない。自分は「ザ・プロデューサーズ」には全く関わっていないのだから)」確か受賞式の順番として、彼の受賞前に続けて7〜8部門「ザ・プロデューサーズ」が連続受賞していたのです。コレけっこう笑える…(^_^;)。

主演男優&助演男優賞を獲得した、現在リンカーン・センター・プロダクションで上演中の「Invention of Love」は、イギリス・オックスフォードが舞台。主人公の青年時代を演じるロバート=ショーン=レナードは、皆さん映画でもお馴染みの俳優サンですが、最近ではブロード・ウェイの常連組。イギリスのインテリ芝居なんか観たいと思わないな〜と思っていたのですが、舞台デザイン賞ノミネートの映像を観て、俄然観に行きたくなってしまいました。ダブル受賞なんかしちゃったから、チケット取りにくいだろ〜なぁ…。
「JITNEY」(今年度オフ・ブロードウェイ賞受賞)の作者でもあるオーガスト=ウィルソン作「King Hedley II」は、見事助演女優賞を獲得。今回のトニーでは、唯一涙を見せたViola Davisのスピーチが印象的でした。

リバイバルの演劇部門では、辛くも「カッコーの巣の上で」がトニーを受賞。ただしこの作品、主演のギャリー=シニーズが主演男優賞を逃したのは勿論のこと、他のキャストは全くノミネートされていないし、演出賞にもノミネートされていないんですよ。作品賞で共にノミネートされていた作品は、現在まで全てクローズしているので、今年は他に対抗馬がいなかっただけかろうじて受賞出来たということでしょうか。受賞式では、電気ショックのシーンがハイライトとして上演されましたが、それもちょっといまイチだったな〜。
奇妙なタキシード姿(?)で会場に現れたジュリエット=ビノッシュで話題を取った「Betrayal」も、結局は無冠でしたね(^_^;)。
最後に、ロンドンでの大ヒットを受けやはりノミネートぎりぎりでオープンした「Stones in his Pockets」は、演出賞と、両主演が共に男優賞にノミネートされる等けっこういい線行ったのですが、やはり無冠でしたね。この作品については、近々観に行く予定ですので、またその時ゆっくりと。

<<ショーほど素敵な商売はない?>>

さて、先にも触れた様に、今年の授賞式のホストは、「ザ・プロデューサーズ」の主演であるネイサン=レインとマシュー=ブローデリック。前半ではリラックスした格好で、そして後半はタキシードで登場して、その“漫才コンビぶり(?)”を披露していました。
ところでなぜか、トニー賞は毎年、最初の1時間はPBS(公共放送)、そして後の2時間はCBS(3大ネットワークの一つ)で放送されます。なぜそうなのかは全くのナゾなのですが。途中でチャンネル変えるのってナンカ変(^_^;)。
賞のプレゼンターも、やはり後半に有名どころが勢ぞろい。今年は、グエネス=パルトロウ、ギャリー=シニーズ、グレン=クローズ、ナターシャ=リチャードソン、サラ=ジェシカ=パーカーなどがプレゼンターを務めていました。ハリウッドの俳優が、ロンドンのウエストエンドやNYのブロードウェイ賞に出演するのは、今日に始まったことではありませんが、もともと映画監督であるメル=ブルックスの「ザ・プロデューサーズ」が賞を総ナメしたことによって、今年はハリウッドとブロードウェイの繋がりが一層際立った年だったと言えるかもしれません。

ご存知の様に、ブロードウェイ・ショーというのは、金額的に言っても一発大勝負みたいなところがあるので、どうしてもロンドンで一度ヒットを飛ばしたショーを持ってきて、安全パイに走りたいみたいな所があります。ミュージカルで言えば、「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」「ミス・サイゴン」辺りがその流れだったのですが、その後、オフ・ブロードウェイから這い上がって来た「レント」がトニーを獲り、その後しばらくディズニー系(「美女と野獣」「ライオン・キング」「アイーダ」)やボブ=フォッシー系(「フォッシー」「シカゴ」「キャバレー」)なんかが続いていました(昨年の「コンタクト」は、やはりオフ上がりのローカル・ミュージカルですが、興行的にはいまイチぱっとしていません)。
殊に芝居に関して言えば、一昨年「セールスマンの死」がそれこそ殆どの賞を総ナメし、「アメリカ演劇の復活」とまで言われた経緯があります。そう言った意味で、やはりオフからブロードウェイに来た「プルーフ」の作者、若干30歳のデビッド=オーバーン氏(ナントこれが2作目だとか)には自然と期待も高まるというモノ。これからの作品が楽しみですね。

で、早くも来年のトニー賞予想なのですが、やはりロンドンから上陸する「MAMA, MIA!」に大注目。こちらはすでにロスで上演されて大人気、NYでは10月に開幕する予定です(いかにもトニーを狙ったスケジュールでしょ?)。使われている曲の殆どがABBAの曲と言いますから、現在すでに始まっているABBA再燃ブームがさらに大きくなるのでは?
また、ミュージシャンのミュージカル参加で言えば、あのペット・ショップ・ボーイズも現在ミュージカルの作曲に着手しているのだとか。こちらの方は、再来年のトニー狙いかな?

最後に。アカデミー賞やグラミー賞と違い、トニー賞は一般の観客にも受賞式観覧のチケットを売り出しています(私の友人は去年観に行ってた)。お値段は$100〜200とやはりお高くはあるものの、その年ノミネートされたお芝居&ミュージカルのハイライトを一気に観られてしまうのですから、けっこうモトは取っているので、私もいつかは観に行ってみたいな〜と思っています。
え〜、ナンカすご〜〜く長い文章になってしまったので、いい加減この辺で…。

"One Flew Over the CucKoo's Nest"
カッコーの巣の上で
05/24/01 (日本語は下を見て下さい)

Written by : Dale Wasserman, Directed by : Terry Kinney
Starring : Gary Sinise, Eric Johner, Tim Sampson, and Amy Morton
Related Sites :
New York Times 1, NYT 2, NYT 3,Village Voice, and Time Out

Properly, I don’t need to explain you much about it if I say this is a production of Steppenwolf, directed by Terry Kinney and lead performed by Gary Sinese. For me, who was so into the play, Orphans last year, which was directed by Gary Sinise and lead performed by Terry Kinney 15 years ago, it was A MUST SEE play.

Since I’ve heard a good review from London about its last year’s show and that it is one of the best candidates of Tony for the best revival this year, I expected too much. Well… it was not bad at all but was not great either. I guess I shouldn’t have seen the film version of “Cuckoo’s Nest” again right before I saw the show. It just made me to realize how great the movie version is.
I am a big fan of Gary Sinise since I saw his performance in “Forrest Gump” and am not a fan of Jack Nicholson (the lead actor in the movie version) at all. However, the protagonist, McMerphy, performed by Jack Nicholson seemed much more humanized than the one by Gary Sinise. Yes, nothing was wrong with Gary’s performance but something was missing. Maybe a little surprise on stage. In other words, he acts as you expect, which is, of course, hard thing to do, but for me, as a greedy audience, I wanted to see something I’d never expect. BTW, he was, yeah!, very sexy to see in front, even though he was a bit fatter than I’d thought.
In addition, Eric Johner, who did Billy (in very gayish way, which I liked) reminded me Phillip in "Orphans". I think there are lots of things in common about those two plays.

There were a couple of parts, which were different from the movie version. The biggest part was those dialogues by “Chief” in between the scenes. It was visually impressive, but I was not really impressed by the idea. (Surprisingly, the actor, who did “Chief” was the son of the actor in the movie version.)
I thought the direction by Terry Kinney was pretty plain and nothing was really new, and at the important scenes, those "beats" were missing in some way. I basically agree with what the critic say in the NY Times article above, so please check it out.
So… now I’ve started doubting if this play won for Tony. If it wins, I guess it was not a great year for the Broadway play this year…

1985年、舞台「オーファンズ」を伝説的なお芝居にしたSteppenwolf Theaterが、設立25週年を記念して、本拠地のシカゴを皮切りに、ロンドン、そして現在NYブロードウェイで上演しているリバイバル・プレイ。当初4月中旬から2ヶ月間限定上演の予定でしたが、トニー賞のノミネートを受け、7月末までの延長が決定しています。
「オーファンズ」では演出を務めたゲーリー=シニーズが主演、そして「オーファンズ」ではトリート役を務めたテリー=キニーが演出と(二人はSteppenwolfの設立者同士)、去年あれ程「オーファンズ」にこだわりまくった私にとって、これはもう必見のお芝居でした。

「カッコーの巣の上で」と言えば、言わずと知れたミロシュ=ファーマン監督・ジャック=ニコルソン主演の映画版(1975年)が有名ですが、元々は、Ken Keseyの原作を1963年に舞台化したものが最初。オリジナル・ブロードウェイ版の主演は、ナントあのカーク=ダグラスだったのだそうで。
簡単な内容ですが、このお話は、刑務所での労働から逃れようと精神異常を装ったマックマーフィーという男が、ある日療養施設にやって来て、患者達の心を開いていく一方、規則・規則づくめの凄腕看護婦(?)と対立して行き…という、ワッキーでいて暖かく、可笑しくてそして悲しい、数々のいろいろなことを私達に教えてくれる奥の深〜〜〜いストーリーです。
今回、ず〜〜〜っと昔に観たっきりの映画版を、観劇直前にもう一度観てしまったのは、私にとってかなりのマイナス要素であったと言わなければなりません。やっぱり、あの映画版、名作ですよ〜〜〜。それですっかり感動してしまっていたから、やっぱりどうしても、比較しちゃって…ね(^_^;)。

“「オーファンズ」の復習編”でも長々と書いた通り、舞台と映画はフィジカル的に全くの違う媒体であって、映画では出来ても舞台では出来ないことが山程あります。皆で釣りに行くシーンが不可能なのは納得するとしても、ラストでのビリーの○○シーンはもうちょっと何とか工夫して欲しかった。私的には映画版・一番の衝撃シーンだったので。
チーフが窓を壊す場面も、さすがに舞台でガラスを割ることは出来ないから、台の底から火花を散らしたりしていたけれど、う〜〜〜ん、あそこもね〜。映画ではけっこう感動した場面だったので、ちょっと興覚め気味だったかな。
バスケのシーンも舞台で一応出てきてはいたのですが、だから何?って感じで(映画版では、やはり大好きなシーンの一つだったので)。でも、ここは舞台版の方が先のはずだから、映画版ではそれだけうまくアレンジを施していたということですね。

また、舞台版と映画版で大きく違ったことの一つは、アメリカ先住民族である、“チーフ”の扱い。今回の舞台では、幕間にチーフの独白が大々的に挿入されています。このセリフがオリジナル・プレイにどれ程入っていたのかは不明ですが、CGなどを駆使したウォール・スクリーニングは、間違いなく21世紀版のオリジナルと言う事が出来るでしょう。ま、悪くはなかったんですけどね。でもあまり斬新にはは感じなかったなぁ。
チーフに関して言えば、最後にマックマーフィーを○○時のセリフが全くなかったので、映画版を3日前に観ていた私には、その理由がなんとか理解出来たものの、やはり大昔に映画版を観たきり細かいセリフまで覚えていなかった友人とってには、ちょっと唐突なシーンであった様です。

「Betrayal」「Proof」と同じく、このお芝居を観に来る観客の殆どは、有名な映画タレントを間近で観たい、という人が多かったのではないでしょうか。ここでのそれは、言うまでもなくゲーリー=シニーズ。私は、「フォレスト=ガンプ」の大佐役をやっていた彼に完璧に惚れ込んでしまい、当時彼を観る為だけに映画館へ3回以上(もしかすると5回くらい?)も足を運んでしまったことがあるのですが、あれ以来、あの役を超える役にはまだめぐり逢っていませんね〜。
う〜ん今回、確かにうまいなとは思ったのですが、何かが足りなかった。まず、舞台上の彼の線の細さにびっくりしました。衣装とか照明のせいもあったのかもしれませんが、全然“濃い人”に見えなかったんですよね。これはけっこう意外でした。
彼も段々タイプキャスト化してきてしまっているのでしょうか。こう、何と言うか一歩先に彼がどんな演技をするのかが事前に見えてきてしまうのです。だから、期待に応え、予想通りの演技を見せてくれはするのだけれど、それだけじゃ何かが物足りない…。私ってば貪欲な観客だから、舞台の上では、何か予想を裏切るようなモノを観てみたいなんて欲張ってしまうのですよね、どうしても(^_^;)。

今回、実は芝居を観終わってからの今日、各誌の劇評を読んでみたのですが、どれも皆ネガティブ評ばかりじゃないですか〜。ロンドンでの評判は良いと聞いていたし、今年のトニー賞でもリバイバル・プレイ最有力候補と聞いていたので、どんなにか良い評が書かれているのかと思っていたのですが。
まず、NYタイムス1の記事(上のリンクをクリックして下さい)の10&11パラグラフ目では彼、そこまで書くか?っていうくらいにコキ降ろされていますね。ただし私はこの筆者とは逆に、ジャック=ニコルソン版のマックマーフィーの方が、ワイルドなインサニティよりもキャラクターの持つ温かみを感じてしまったのですが(ちなみに私はまるっきり、J=ニコルソンのファンではありません)。次のNYタイムス2の記事は、ゲーリー=シニーズのインタビューを中心にして書いてあるので、かなりのヨイショ記事になっていますが、後のビレッジ・ヴォイス(最後の1パラグラフしか書いてない)や、タイムアウトの記事になると、またさらに辛辣な評が書かれています(^_^;)。こりゃ〜、もしかするとトニー賞はハズすかな???

その他のキャストについて。看護婦役のエイミー=モートンもまぁ、ソツがないというか、優等生的な演技を見せていました。彼女も含め、キャストの殆どがSteppenwolf の役者さんなのだそうで。ちなみに、映画版では登場しない役=医師役をやった俳優さんは、コミカルな感じでまぁまぁ面白かったです。
そんな中、おそらく二人だけの客演だったうちの一人、チーフ役を演じたティム=サンプトンは、オリジナル・プレイ&映画版でチーフ役を演じた役者さんの息子なのだとか。いやはや、ネイティブ・アメリカンで体格のでかい俳優さんなんて、よくも探してきたなぁと思ったけれど、オリジナル版の息子とはね(^_^;)。
そしてもう一人の客演、ビリー役を演じたエリック=ジョナーは、映画版とは全く違ったゲイちっくなビリーで、とってもかわゆかったです。でも、たま〜に演技の見えてしまう所があって、その辺は残念だったというか、あれは演出のせいだったんじゃないかというか…。
ビリー役というのは、ある意味「オーファンズ」のフィリップ役に当たる、新人にはこれ程オイシイ役はないっていう感じの役なのですよね。う〜ん、あの役を「オーファンズ」でフィリップ役をやったケヴィン=アンダーソンが辺りがやったら、もろハマるんじゃないだろ〜か(^_^;)。そういった意味では、マックマーフィーの役って、実はけっこうトリートみたいな役なんですよね。ただワイルドでいるだけじゃ魅力的になれない、めちゃ難しい役なのであります。う〜ん、若い頃ゲーリー=シニーズがトリートの役なんかやっていたら、凄くハマっていたのではないでせうか…。

私は今回の演出家、テリー=キニーが「オーファンズ」のトリート役を演ったのを観たことはないし、彼の出演映画なんて最近では「The House of Mirth」くらいしか観ていなくって(数ヶ月前の全米ヒット作「Save the Last Dance」や、ケーブルTV・HBOの「OZ」シリーズ等にも出演しているので、それなりに有名な役者さんではあるのですが)、俳優、兼、監督をやっている人と言われてもあまりピンとこないのですが、う〜〜〜ん、演出家としては、やっぱり“ソツない演出家”なのかなぁと思いました。悪く言えば、個性のない演出家ということも出来ますね。
一番不満だったのは、いわゆる場面・場面ごとの“Beat”がすっぽりと抜けていたということ。特にラストでのビリーの○○前とか、マックマーフィーの○○れる直前とか…。何か盛り上がりが感じられなかった。マックマーフィーが、療養所から逃げるかどうするかと考える場面でも(これは映画版でも変だなと思ったので、脚本の問題なのだと思いますが)、全然Beatがなかったよ〜〜〜。
上にリンクした各誌でも、演出に関してはネガティブ評ばかりの様ですが、一番うまい言い方しているなと思ったのは、NYタイムス1の記事冒頭の「スターバックスが現れる前、ステッペンウルフは、カフェインの効いたトリプル・エスプレッソを提供していた…(略)…だが、このショーは、コップに入ったスキムミルクにしか過ぎない」でしょうか。私もこのお芝居には、もっともっと濃い〜モノを期待していたのですが、なんか薄〜い、でもきれいで清潔なモノを見せられてしまった様な気がします。

ともあれこの作品、今年度トニー賞並びにドラマ・デスク賞では、リバイバル演劇部門の作品賞、主演男優賞その他にノミネートされています。つい先日まで、受賞は確実だろうなどと思っていたのですが、昨夜以来、もしかして取らないんじゃない???という懐疑心にかられ始めてまっていますね(^_^;)。
でも、まぁ、演技の出来がどうであれ、ゲーリー=シニーズを間近で観られたのは良かったし(お腹出てたけど、やっぱせくしーだぁぁ>_<)、料金高かったけどやっぱり観に行って良かったです。
それと、このお芝居って意外にも、文化背景の違いっていうのが、あまり重要な要素ではないんですよね(特に、ビリー役なんて多くの日本人から共感を受けるのでは?)。マックマーフィー役のバリバリ南部訛りを無視すれば、日本語バージョンも十分そのままでいけるんじゃないかと思います。さてさてこのお芝居、もし日本のキャストでやるなら、マックマーフィー役を演じられるのは果たしてどの俳優さん???10年後の椎名桔平さんとゆ〜のは、アリでしょうかね?????

"Showcase: Class of 2001"
at The Actor's Studio
アクターズ・スタジオ:ショーケース2001
05/17/01

アクターズ・スタジオと言えば、英国ナショナルシアター、モスクワ・アートシアター、パリのコメディ・フランチャイズと並ぶ世界4大俳優機関の一つ(俳優:椎名桔平さんも、以前入学・入団に興味を持っていたのだそうで)。 ここNYにあるアクターズ・スタジオの本拠地はビレッジのど真ん中にある小さな建物なのですが、いつも緞帳に隠れたスタジオの内部は、そこからたったの3ブロック先に住み、殆ど毎日その前を通って生活している私にとっても神秘的なモノがありました。
今回、業界人用のショーケースが2日間に渡って行われ、その2日目のチケットをGETした私は、喜び勇んでかの地に乗り込んで来た(?)というわけなのです。

<<Actor’s Studioとは?>>

1947年、モスクワ・アートシアターで当時最先端の演劇論を学んだリ=ストラスバーグを中心に、エリア=カザン、ロバート=ルイス、シェリル=クロフォードらによって設立。当初の発端は、その名の通り、俳優達自身が俳優達の手によってスタジオを確保するという目的から始まりました。そのうちワークショップ&メンバーシップ制が定着。名声やキャリアではなく、あくまでも俳優としての才能によってしか開かれないその門は狭く、設立から50年以上たった今でも、全メンバーの数は900人あまりしかいないそうで。(その内150人以上が、アカデミー・トニー・エミー賞のいずれかを獲得)リー=ストラスバーグの「ザ・メソッド」と呼ばれる演劇方法論は、アメリカだけでなく、今でも世界中の人々から広く受け継がれて来ています。

メンバーの内でも特に有名なのは、アル=パチーノ、ジェームズ=ディーン、マリリン=モンロー、マーロン=ブランド、ジェーン=フォンダ、ロバート=デニーロ、ダスティン=ホフマン、そしてポール=ニューマン。
その他のメンバーには(名字のアルファベット順)、アレック=ボールドウィン、エレン=バースティン、フェイ=ダナウェイ、ロバート=デユボア、サリー=フィールド、ウーピー=ゴールドバーグ、ジーン=ハックマン、デニス=ホッパー、ホリー=ハンター、ハーベィ=カイテル、マーティン=ランドウ、ネィサン=レイン、ノーマン=メイラー、ジャック=ニコルソン、アーサー=ペン、シドニー=ポワチエ、シドニー=ポラック、エイダン=クィン、ジョン=ボイド、クリストファー=ウォーキン、ロビン=ウィリアムス等がいます。
また、
「オーファンズ」の原作者:ライル=ケスラーがActor’s Studio出身であるのは、有名な話。普段のプラクティスからショーケースに至るまで、「オーファンズ」は、今でも好んで使われるお芝居の一つなのだそうです。

この他、彼等には「Inside of the Actor’s Studio」という1時間の持ち番組があります。これは、現在話題の俳優・演出家・脚本家などを招いてインテビューやQ&Aをするというもの。インタビュアーは、Actor’s StudioのディーンであるJames Lipton。質問は、この後にご説明するMFAの学生が演技論などについて、自由に質問します。こちらに招待される俳優はメンバーに限らず、ジュリア=ロバーツやメグ=ライアン、最近ではベン=アフレックといったポピュラーな人気俳優も多数。
毎週日曜日、(NY地区では)BRAVOチャンネルにて放送されています。詳しくはこちらのページで。

<<Actor’s Studio Drama Schoolについて>>

老舗50年のASが、つい7年前、ポール=ニューマン、ノーマン=メイラー、アーサー=ペン、エレン=バースティン等を中心にして、1994年の秋に立ち上げた新プログラム。このカリキュラムは、New School Universityと提携しており、卒業すればMFA(修士学位)を取得することが出来ます。入学に必要なのは、推薦書とTOEFLのスコアですが、一番重視されるのが、オーディション。ASの才能重視の伝統がここにもしっかりと生かされています。

このプログラムには、俳優科に比べて圧倒的に数は少ないながらも演出科、脚本科も含まれ、それぞれの分野の生徒達が協力しあって進めるワークショップもあるのだとか。
MFAの取得までには最低3年。だいたい3年か4年で卒業していく学生が殆どなのだそうです。そして毎年5月、卒業発表として約2週間に渡り、スタジオでお芝居が上演されるというわけ。
よく間違える人が多い様ですが、このドラマスクールの卒業生=Actor’s Studioのメンバーではありません。Actor’s Studioのメンバーになるには、その為のオーディションをパスしなければならず、MFAの卒業生であるからといって勿論オーディションが有利になるというわけではないそうです。

<Show Case / Class of 2001>>

さてさて、私が昨夜観に行ったのは、ドラマスクール卒業発表のラスト2日間に行われる業界者の為のショーケース(私も一応、業界の人ではあるので(^_^;)。一つの大きなお芝居を上演するのではなく、1〜4人のアクター達が、2〜5分程度のシーンを発表します。そこへ映画・舞台・TV関係者や、タレントエージェントなどがヘッドハンティングをしに来るというわけですね。
最初は業界人だけの張り詰めた雰囲気でもあるのかな、とおそるおそる会場に行ったのですが、昨日は全レパートリーの最終日、兼、卒業の日でもあったので、打ち上げパーティも兼ね、終始なごやかな雰囲気が漂っていました。また、一緒に行ったのが昨年のASDSの卒業生でもあった為、多くの友人や教授達(「Inside the Actor’s Studio」のJames Liptonにもしっかり紹介してもらっちゃいました(^_^;)と話しをすることが出来、なかなか有意義な話を聞くことが出来ました。

まず一番印象に残ったのは驚く程留学生が多いということ。実際、アジアの留学生は少ないなとは思ったのですが(Class of 2001では日本人が2人)、ヨーロッパ系やヒスパニック系の留学生がもの凄く多かった。でも、留学生なりの訛りや生活意識の違いを逆手に取ってお芝居に反映させている人が多かったので、その辺はとても印象が良かったです。
それと、コレは学生の作る短編映画を観る時にも全く同じことを感じるのですが、ショートストーリーはオチを付けるのが非常に難しく、面白い作品は、それだけで好印象が後あとまで残ります。けれども、それが果たして良いパフォーマンスだったかというと、また全く違った次元のお話なわけで…(映画の場合も、話のオチがよく決まった作品の演出的クオリティが高いとは限らない)。その辺が観ていてとても難しいなぁと思いました。

意外にも、全19作品のうち8作品がひとり芝居。9作品が2人で後は3人芝居・4人芝居共に1組ずつでした。ひとり芝居って、よっぽど個性の強い人がやらないと、何だかワケわからないうちに終わっちゃうんですよね。2人芝居は、Chemistry(=相性)のモンダイもあるし…ムズカシイですね。取り合えず、私の観た中でお気に入りのベスト6を挙げておきます。さてさて、この中から明日のスターが誕生するか…。

1: "Tooth" - - - Dina Mandes & Lloyd Suh

2: "Couples by Don Anderson" - - - Traci Hovel & Dennis Russo Jr.

3: "Breast Men" - - - Jason David Tanner & Dennis Lyons

4: "Vladivostok Blues" - - - Monica Perez Brandes

5: "Apres Opera" - - - Margaret Evans, Graeme Gillis, & Jeff Margolis

6: "Antonio is not a Lesbian" - - - Maria-Jose Davo

Actor’s Studioの公式サイトは、こちらから。

また、99年NHKでも放送された「アクターズ・スタジオ:演劇革命」というドキュメンタリーや、
「リー=ストラスバーグとアクターズ・スタジオの俳優たち」(ロバート・H・ヘスマン編/高山図南雄訳)
等も参考にしてみて下さい。

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