|
さて、まず私がこのお芝居を観た理由・・・ハイ、そうです。「オーファンズ」の復習編、予習の為です。では、現在NYで上演されている数あるお芝居の中から、なぜこのお芝居一つを選んだのでしょう???理由は、このお芝居が「オーファンズ」に様々な部分でとても似ていたからなのです。さて、ではその類似点を以下に挙げてみますと・・・(ちょっとこじつけ的ですが ^_^;)。
・ 年代背景が似通っている。”JITNEY”の時代設定は1977年。「オーファンズ」では、おそらく70年代後半。
・ 初演された年も近い。”JITNEY”は1982年、「オーファンズ」は1983年。(チラシに1985年NYとあるのは間違い。実は1983年のLAが初演でした)
・ 地域的背景も似ている。”JITNEY”はピッツバーグ、「オーファンズ」はフィラデルフィア。(厳密に言うと違うんですけどね ^_^;)。
・ 登場人物の経済的背景が似ている。どちらも「その日暮らし」の貧民層(?)です。
・ 男優が中心の少人数アンサンブル芝居であること。”JITNEY”では男優7人に女優1人。「オーファンズ」では、男優3人。
・ 舞台装置がそっくり(^_^;)。真中にボロボロのソファがどんと置いてあって、脇に小さなテーブルと椅子がおいてあります。そして“あの”帽子かけもありました(^_^;)。
・ 骨子となるテーマの一つが、父から子への愛情。しかも、ずっと一緒に暮らしていた父子ではないこと。
・ 父親がラストシーンの手前で死に、息子が未来に向かうところで話が終わる。
ここまで書くと、ホントにそっくりみたいでしょ?ま、正確にいえば、そうした「色眼鏡」で観ていたということです。
さて、ようやっとこのお芝居の紹介に入ります。”JITNEY”は、アフリカ系アメリカ人を描く作家としてはその名を馳せるAugust Wilsonによって書かれたもので、これは彼が無名の頃に書いた最初の戯曲。さびれたカーサービス会社の待合室が舞台になっています。NYでは今年、元々オフブロードウェイのセカンドプレイとして期間限定で始まったらしいのですが、批評家受けが良く、9月の中旬から無期限公演に入っています。
まずは一言感想・・・「終わり良ければ全て良し」。やっぱり芝居はこうでなくっちゃ、って感じでした。最後に息子がたった一言喋るセリフ、今でも胸に残っています。実を言うとこのお芝居、“構成的”にはあまりよく出来ていません。まぁ、無名時代の最初の作品だからしょうがないのかな?中休みの直前に非常にテンションの高いシーンがあるのですが、これが惜しい。何かハズしてるって感じで、観客が皆ソワソワむずむずしてるのが如実に分かるのです。で、ラスト近くも、リズム的に・構成的に「ちょっと違うんじゃないの?」っていう個所がいくつもあって、「あ〜、また失敗した?」なんて、思いかけてた所にあの最後・・・。良かったです。
実は途中、メインであるはずの父子関係がいまイチ中途半端に描かれていて、後半ちょっと不満になって来ていたのですが、最後の最後のシーンで息子が”Car Service”と言って電話を取る瞬間(そのたった一言で、息子がそのカーサービス会社を継ぐことが一瞬にして分かるのです)のセッティング・タイミング・シチュエーションの全てがもう「お見事!」って感じで、それまでの不満が一気に全てチャラになってしまいました(^_^;)。すごいっ!今までただうるさいと思っていただけの電話に、これだけの意味があったとは!!!
この「カラクリ」が最後に解けた瞬間、それまでのお芝居が全て走馬灯のように蘇って来てしまうのです。それまでの2時間半が、「その瞬間」に至るまでのまるで“クレッシェンド”であったかの様に・・・。
俳優陣は素晴らしいです。カーサービス会社のオーナー&父親役にPaul Butler。彼は私の大好きな映画「インサイダー」で、ウォールストリート・ジャーナルのエディター役をやっていた貫禄のある役者さん。等身大の彼を見られたことは、このお芝居を観たことで得た大きな収穫の一つです。息子役は、上にも書いたように途中いまイチなんですけど、ラストでぐ〜っ、と心に残りますからね。ほんと「オイシイ役」です。ドライバー陣の中でもひときわ目立っていたのが、ドネル役のRussell Andrews。存在感ありました。その妻・レナ役のMichole Brian Whiteも良かった。ここまでの4人は、すでにダブルキャストも決まっているので、おそらく他の芝居や映画のオファーが入って来ているのでしょう。脇役さん達も良かったですよ。脇役さん達の多くが初演から18年もこの役をやってきているというのだから驚きです。もう板に付きすぎ(^_^;)。
ま、また散漫な感想文になってしまいました。このお芝居も十二分に参考にして、「オーファンズ」の復習編に臨みたいと思います。
|
このお芝居は1993年東京で初演され、1994年度の岸田戯曲賞(演劇の脚本での最高賞)を受賞した作品です。
この作品を執筆し、自ら演出を手掛けた平田オリザ氏は、劇団「青年団」の主宰者として、また大世紀末演劇団、駒場あごらシアター、道路劇場などの活動を通して国際的にも知られている演劇人で、その著者も多数あります。(ICU在学中、自転車で世界一周旅行したことでも有名)
何と言っても、今回「オーファンズ」復習編のタネ本にしている「演劇入門」という本の著者なので(時期的には全くの偶然だったのですが)、気合も一層入って観にいきました。ちなみに今回の公演は、NYのジャパンソサエティでの3日間特別公演でした。
感想・・・。もし「オーファンズ」のことが頭になかったら、けっこう感動してたかもしれません。(^_^;)・・・というのは、あまりにも「オーファンズ」と違ったタイプのお芝居だったので、面喰らってしまったというのが正直な所だったのです。
演劇には全くのシロウトである私ですが、その昔は「夢の遊民社」「第三舞台」の様にポピュラーなものから、新宿梁山泊は勿論のこと、下北沢のインディー系お芝居に至るまで、取り合えず一通りは観ていました。けれども去年の新宿梁山泊のNY公演を除けば、私にとって日本のお芝居には、ほぼ7年間の観劇ブランクがあります。う〜ん、「日本のお芝居」ってこんなんでしたっけ???
まずは、間の取り方。「空白」・・・多いです(^_^;)。でも、勿論それはわざと、というか芝居のリズムなんですよね。コレ、もうすっかり忘れてました。「オーファンズ」をご覧になった方々はお分かりの通り、アメリカ演劇(そこまでくくっていいのかな?)は、まくしたてる様にというか、たたみかける様に、のべつまくなしに喋るモノが多いみたいですけれど。(ちなみに私が去年から今年にかけて観たお芝居は”Closer”, “Bash”, “Death of Salesman”の3つだけ。それでそこまで言うかな〜^_^;)日本のお芝居だって、野田秀樹さんの様に「言葉遊び系(?)」のお芝居など、セリフの早いモノは山ほどありますから決して一概には言えないのですけどね。
また「演劇入門」でも平田氏が書いている通り、「東京ノート」のネタ元は、小津安二郎の「東京物語」。つまり、このお芝居では、「東京物語」のあのゆったりとした会話のリズムが継承されているというわけなのです。上演時間は2時間以下でしたが、これが2時間以上だったらアメリカ人の観客には耐えられなかったかもしれません(何しろ、英語字幕を読むのも面倒くさそうでしたから^_^;)。でも、これをイケナイと言っているわけではありませんよ。あくまで「違う」と言っているだけです。
お話の舞台は2004年、ある美術館のロビー。ヨーロッパが戦争に突入したことによって、欧州から日本に有名な絵画が次々と送られてくるという時代設定です。この作品の一番の特徴は、何組かのグループがある時は別々に会話し、またある時は一本の線で繋がったりと、様々な人間模様のクロスオーバーが楽しめる所。お話のアイデアとしてはとても面白いと思います。
反面、キャラクターへの感情移入がどうしても散漫になってしまうのも事実。彼らの淡々とした会話は、ある意味この芝居の「表現」であり「狙い」ではあるのですが、「映画の文法」に慣れきった私(演劇&映画の文法の違いについては、「オーファンズ」の復習編を参考にして下さい)には、観ていてもの足りなささえ感じる所もありました。
でも、何が一番もの足りなかったといって、それはやっぱり役者さん達のカリスマ性だったと思います。こういった、「何気ない会話」の積み重ねだからこそ、一言一言に重みが増してくるはずなのに、何となく会話が“宙に浮いていた”みたいな気がします。(キビしすぎ?)たった一人だけ、もの凄く存在感のある役者さんがいたのですけどね。配役としては、脇の脇をやっていた志賀コウタロウ(英語の資料しかないので、漢字がわかりません)さんという人です。40歳後半くらいの方でしょうか?セリフもとても少なかったのですが、何だか彼の周りだけ空気の重さが違う様な気さえしました。お芝居では、こういった役者さん達の「気」を直接感じることが出来る所がいいですよね。
というわけで、このお芝居はいい意味でも悪い意味でも、非常に「日本的な」お芝居でした。アメリカ人にこのお芝居をリアルに受け止めろっていうのは難しい様で・・・。もちろん、その背景にあるのは「家族」とか「恋愛」とか、普遍的なモノばかりなんですよ。でもそれらの“モンダイ”を背中から撫でるように触れる感覚や、結論を宙つりにする様な結末(どこかで聞いたことあるようなセリフでしょ?)は、きょうびハリウッドのストーリー・フォーミュラに慣れきった私達には、ムツカシイものがあるみたいです。もう一度、違うキャストでじっくりと観てみたいかなぁとは思いましたけど。
ま、「オーファンズ」の復習編への予習(?)としてはいろいろと考えさせられたので、観てみて十分タメにはなりました。(平田オリザさん、不純な動機でお芝居観ちゃってゴメンナサイ。^_^;)
----------------------